全 情 報

ID番号 06366
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 株式会社中部ロワイヤル事件
争点
事案概要  パン・洋菓子等の製造を行う会社とパン類の訪問販売を行なう旨の「外交員契約」を結んだ者が、右契約を労働契約関係とみるべきものとして、退職金等を請求した事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法2章
労働基準法24条1項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 外務員
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1994年6月3日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 1921 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ879号198頁/労働判例680号92頁/労経速報1585号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-外務員〕
 原告らは、いずれも新聞などの求人募集に応じて被告との間に本件外交員契約を締結するに至ったものであるが、求人広告には外交員の仕事としてパン類のいわゆる宅配業務を行うものである趣旨の記載がなされていたことから、これに応募する際、原告らは、自ら独立の営業主として被告のパン類の販売業務を行う意思は毛頭なく、単に被告の販売員になるといった程度の認識しか持っていなかった。〔中略〕
 以上認定の事実に前記当事者間に争いがない歩合手数料、半期手数料及び退職慰労金額の決定と支払に関する実情を総合すれば、次のとおり認めることができる。
 原告らは、いずれも独立の営業主としてではなく、被告のパン類の販売業務の一端を担う外交員として、被告に従属してパン類の販売という比較的単純な作業に従事し、これに対し被告から歩合手数料、半期手数料及び退職慰労金の給付を受けていたものであること、しかもこれら手数料及び慰労金はその名目の如何にかかわらず、原告らが販売したパン一袋を一点とし、その販売数量に応じて統一的かつ形式的に算出される実績点数に対して一定の金額を乗じて支払われる金銭給付であること、すなわち、歩合手数料と半期手数料との間には前者が毎月支払われるのに対して後者が半期毎に集計して支払われるものであるといった違いがあり、また歩合手数料と慰労金との間には、前者が実績点数の上昇に従ってこれに乗ずる単価も上昇するのに対し、後者は単価が一定に定められ、しかも外交員が外交員契約を解約して退職する際にそれまでの実績点数を合計して、これが基準となる実績点数(ノルマ)を超過したときに初めて支給されることとされている点において違いはあるけれども、被告の裁量により実績点数及び単価に変化を設けることはできない仕組となっており、外交員の労働の結果としての販売実績、言い換えればその出来高に応じて給付額が確定するといった基本的性質の点においては何ら差異のないものであることが認められ、こうした事情を考慮すると、本件外交員契約により、原告らと被告間には労働契約が成立したものというべく、したがって原告に支払うべきものとされていた手数料及び慰労金等はいずれも労働の対償として、労働基準法上の賃金に該当するというべきである。
 なお、外交員が販売するパン類が外交員の買取り制になっていたといった事実は、前記のとおりその価格決定について原告らに交渉の余地がなく、したがって、このことにより原告らが利益をうける可能性がないばかりか、むしろ原告らにとって負担となっていたことに照らすと、これをもって本件外交員契約が労働契約であることの認定の妨げになるものではない。また、前記外交員規約中には、「見習い期間終了後は雇用期間ではないため、就業時間を束縛することができないこととする。」(一四条三号)と、敢えて本件外交員契約が労働契約でない旨を明記する文言も存在するけれども、前認定の本件外交員契約の内容及び原告ら外交員の勤務の実態に照らすと、本件外交員契約が労働契約であるとの認定を左右するには足りないというべきである。〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 右手数料及び退職慰労金などが労働基準法上の賃金と認められることからすると、被告は、特段の合理的理由のない限り、労働基準法二四条によりその全額支払いの義務を免れることはできず、仮に被告において支払義務を免れる旨を規定し、当事者間においてこれに従う旨の合意をしたとしても、そのような規定及び合意は公序良俗に反し無効と解するほかないところである。
 ただ、退職金については、なかには報償ないし恩恵的なものが含まれている場合があり、その合理的範囲内においてこれを減額する規定ないし合意も有効と解される余地があるけれども、本件退職慰労金については、前認定の支給要件、支給額決定の実情に照らしてみると、外交員の永年の貢献に対する報償ないし恩恵的な要素は認められず、したがって、退職慰労金についてもこれを不支給とする右規定及び合意を有効と解することは困難といわざるを得ない。