全 情 報

ID番号 06368
事件名 労務提供義務不存在等確認請求事件
いわゆる事件名 福岡中央郵便局事件
争点
事案概要  郵政事業職員特殊勤務手当支給規定に基づく道順組立手当の廃止が、就業規則の不利益変更に当たるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項2号
労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 1994年6月22日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 3153 
裁判結果 却下,一部棄却
出典 労働判例673号138頁
審級関係
評釈論文 後藤勝喜・法律時報67巻3号103~106頁1995年3月/後藤勝喜・労働法律旬報1353号28~29頁1995年2月10日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 私企業においては、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」ものと解される(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁)。これに対し、郵政事業職員の勤務関係は、基本的には公法上の関係であって、管理者の定める就業規則の法的性質も私企業におけるそれとは異なるものと解されるから、私企業における就業規則の不利益変更に関する前記法理が当然に郵政事業職員の勤務関係における場合についても妥当するわけではない。しかし、少なくとも変更された当該就業規則の条項が合理的なものであるときには、個々の郵政事業職員において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないものと解すべきである。そして、右合理性を判断するに当たっては、当該勤務関係の公共性も踏まえた上で、郵政事業職員が被る不利益の程度、就業規則変更の必要性及び内容の妥当性、右不利益に対する代償措置等の補完事由の存否及びその内容並びに当該変更に対する右就業規則の適用を受ける関係職員の態度等の諸事情を総合考慮すべきである。
 そこで、本件について以下検討するに、(一)順立手当は、支給月額は最高でも一三五〇円程度(五〇円×二七)であり、その廃止により関係職員の被る不利益は大きいとは言えないこと、(二)順立手当は、住居表示制度の普及に伴い、もはや道順組立作業の特殊技能としての意義がほとんど失われており、特殊勤務手当として存続させる根拠が甚だしく乏しくなっていたものであり、総務庁行政監察局からもその廃止の指導を受けていたこと、(三)これに対し、順立手当の廃止に伴って創設された販促手当は、郵便事業財政の赤字を解消するために郵便営業活動を積極的に展開する必要に迫られていた郵政省が、郵便営業活動に対する職員の意欲を喚起し、これに参加する職員の労に報いる有効適切な手当として、関係組合の強い要請も受けて創設したものであって、その創設については高度の必要性が認められること、(四)また、大蔵省との予算折衝において、販促手当を創設するには既存手当の廃止が不可欠となり、既存手当の中で存続意義の薄くなっていたものを右廃止の対象として検討したものであり、右(二)の事情から順立手当を廃止の対象として選定したことには相当の合理性が認められること、更に、(五)販促手当は、郵便関係職員に関する限り、自ら積極的に営業活動を行った場合のほか、営業推進に関する諸施策(かなり広範囲のものが含まれる。)に参加した場合においても、所属する課を通じて一定額の支給がなされることになっており、積極的に郵便営業活動に従事しなくても、支給を受ける額は、前記のとおり、順立手当に比較して必ずしも低額とは言い難いものであり、しかも、順立手当の廃止前のベースアップにおいて、基本給の一部である調整額に関し、右手当廃止を見込んだ引き上げを行っており、一定の代償措置を施しているものと評価し得ること、そして、(六)郵政省は、他の関係組合と同一の時期に、原告らが所属する全福郵労に対しても販促手当の創設と併せて順立手当の廃止を提示し、同組合に対し団体交渉を申し入れ、合計二回の団体交渉を行い同組合の承認を得ようと努力したものの、結局、同組合の交渉決裂宣言により承認は得られなかったが、前記認定の交渉経過に照らし、同組合を不当に差別し支配介入を行ったものとは到底言い難いものであり、同組合との交渉過程に特に問題はなかったものと認められること、(七)順立手当の廃止及び販促手当の創設に関しては、管理職及び非常勤職員を除く郵政事業職員の五八・六パーセントを占める全逓及び二六・三パーセントを占める全郵政との間でそれぞれ合意妥結しており、圧倒的多数(少なくとも八四・九パーセント)の関係職員の同意を得ていることなどの諸事情が認められ、これらの諸事情を総合すると、順立手当の廃止は十分にその合理性を認めることができるものと言わなければならない。