全 情 報

ID番号 06371
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 源吉兆庵事件
争点
事案概要  販売店員として勤務していた労働者が、同僚に対する叱責・詰問等を理由になされた解雇につき、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 解雇手続
裁判年月日 1994年7月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 1661 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労働判例659号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続〕
 債務者の就業規則第五七条によれば、制裁事由ある場合は制裁委員会を経て行い、必要に応じて弁明の機会が与えられることが定められているところ、本件解雇は前記のとおり形式的には同規則第五八条第三号の「会社の秩序を乱したとき」に該当し、実質上制裁としてされたものであるにかかわらず、制裁委員会も開催されておらず、又債務者に告知もされず弁明の機会も与えられていないものである。
 尚申立外Aに対する行為につきB支店長が事情を聞いているが、これは申立外Aの申出により、職場秩序の維持と同人らのトラブルの解決のために行われたものであり、制裁を前提としたものでないから、おのずから債権者の対応も制裁を告知して事情聴聞される場合と異にするものであり、これをもって同規則の弁明の機会を与えたものとは言えない。
 そうすると仮に債務者主張のように、債権者のいじめ問題が存在したとしても、その行為は就業規則記載の制裁事由の訓戒、減給、出勤停止及び降格の処分対象に該当するにすぎず、その処分も制裁委員会の開催により決定されることとなっているのに比較すると、本件解雇は厳しい措置であり、かつその手続も相当でなく、著しく均衡を失しているものである。
 3 債務者の主張によれば、同種のいじめ行為をしたとする申立外Cは、債権者と同様配置転換はされたが、解雇は勿論、何らの制裁もされていないのであり、同人に対する処遇と比較すると、債権者の解雇は厳しい措置であり著しく均衡を失しているものである。
 4 さらに債務者は、解雇にいたる団体交渉の過程でも債権者に対し、いじめ問題につき何らの告知もしておらず、むしろいじめ問題を理由として解雇する意思を決定しながらこれを秘して、債権者が任意に辞めるか、配置転換を拒否することを見込み、拒否するときはこれを理由として解雇するとの前提で債権者に対し配置転換を命じ、その見込みに反して組合が関与して団体交渉を求めるや、これに応じて、「債権者の成績は良い、配置転換は栄転である」等と発言して配置転換に応じるように説得したのであるが、これら債務者の行為は債権者に対していじめ行為を不問にするとの意思を示したものと見ることができるところ、本件解雇はこの債務者の債権者に対する意思表明に反する不意打ちの措置であり、著しく信義に反するものである。
 5 又債務者は債権者が配置転換に応じるや、就業時間の告知を遅らせて債権者の定時出勤を困難にするなどし、債権者が出勤するや、本来認められる時間外の組合活動行為であり内容も相当であるビラの配付等を理由として、就労を拒否して帰宅させ、翌日出勤すると同時に、解雇の種類や理由を告知せず、解雇手当ても現実に提供せずに、解雇を言渡し、続いて前記のように債権者が考えていた真の理由でない解雇理由を通知する等しており、その応対は極めて不誠実なものであり、その手続きも社会的相当性を欠くものというべきである。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本来解雇権利の行使は自由であるが、その効果は労働者の生存の基盤を喪失させるものであるから、社会的に相当と認められる合理的根拠の存在が認められ、かつ相当の手続きによって決定されるべきものであり、これを欠く解雇権の行使は権利の濫用としてその効果を否定されるべきものである。
 本件解雇は、解雇の理由が債務者の就業規則に定める解雇事由に該当しないこと、仮に債務者の主張する解雇事由が存したとしても、就業規則に定める他の制裁処分の場合や同種のいじめ行為をしたと債務者が主張する申立外Cの処遇と比較して、著しく均衡を失していること、解雇理由について債権者の弁明の機会を与えていないこと、解雇に至るまでの債務者の態度や対応の態様や経緯、解雇告知の方法等が、信義に反しかつ不誠実なものであり社会的相当性を欠くものであること等からすると、本件解雇権の行使は、権利の濫用としてその効力を認めることができないと言うべきである。