ID番号 | : | 06372 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三菱重工業振動病事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 造船所で働く労働者が、被った振動障害につき、会社に対して安全配慮義務違反等を理由に損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1994年7月12日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (ワ) 893 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1518号41頁/タイムズ860号54頁/労働判例663号29頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 (一) 工法改革 (1) 被告Y会社において、昭和三〇年以降、船舶建造工程におけるリベット接合法から溶接法への変革及びこれに伴う鋼材の曲げ加工、接合、ハツリ等の各工程における工法改革、さらに油圧プレス、線状加熱法等の新規導入等によって、作業内容が徐々に改善され、また、工具についても、従来のチッピングハンマーやスケーリングハンマーから、エアグラインダーや振動を伴わないアークエアガウジング等が中心になったことは右認定のとおりである。 (2) しかしながら、右認定事実からすれば、以上の工法改革等は、被告の国際競争力増強、生産性向上の一環として、あるいは近隣住民との間の騒音防止対策として実施されたものであって、これら作業に従事する労働者の振動被曝を減少させることを目的として講じられた措置ではなかったといわなければならない。 そして、被告は、被告Y会社において、鋳造品のハツリ作業等について、アークエアガウジングの導入をした後においても、昭和五〇年代初めころまでの間、依然として、社外工を中心に、チッピングハンマー、スケーリングハンマー、さらにエアグラインダー等の振動工具を使用させ、その作業量と時間は、当時の高度成長期に伴う船舶建造量増大等のため、かなりのものに及んだことも右認定のとおりである。 (二) 安全衛生対策 《証拠略》によると、被告は、労働省労働基準局長から発出される通達にしたがい、昭和五〇年五月中旬から六月にかけて振動工具使用者に対してようやく第一回目の特殊健康診断の実施を計画したが、原告ら従業員が被告Y会社内で就労していた昭和五二年ころまでの間には同人らに対して実施されるには至らず、撓鉄工であった前記A(被告本工)が右特殊健康診断を初めて受けたのは昭和五八年ころであったこと、そして、それまでの間、被告Y会社においては、視力検査やレントゲン検査等の年二回の定期健康診断が行われていたにすぎないこと、被告は、昭和五二年ころ以降、徐々に防振手袋の支給を行い、また、昭和五五年三月、振動工具の取扱作業時間の管理を推進するため、振動工具の種類ごとに使用時間の規制を設け、各労働者ごとの使用時間の記録等を実施する旨の所内通知を発したこと、もっとも、右防振手袋は、振動工具使用者全員には容易に行き渡らず、船舶修繕に従事していた前記B(被告本工)が防振手袋を受領したのは昭和五八年ころであったこと、前記C協力会は、平成五年四月、被告Y会社船修部の特別パトロールを行ったが、同協会は、その際、同所作業員につき、「全般的にグラインダー、錆打ち、切断機等振動工具使用時、防振手袋の着用者が少ない、周知励行を要す。」旨の指摘をしたことが認められる。 3 右認定各事実を総合すると、被告は、被告Y会社で振動工具を使用する原告ら従業員に対し、振動障害の発生と進行を防止すべき安全配慮義務の履行を怠つたというべきである。 |