全 情 報

ID番号 06381
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 新関西通信システムズ事件
争点
事案概要  業績が悪化したことを理由に旧会社が解散され新会社が設立され、大部分の従業員が新会社に採用になったのに対して、不採用になった者が、新会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの仮処分を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 新会社設立
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1994年8月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 1049 
裁判結果 認容
出典 労働判例668号48頁
審級関係
評釈論文 関戸一考・労働法律旬報1346号20~23頁1994年10月25日/中村和雄・民商法雑誌113巻4・5号795~803頁1996年2月
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-新会社設立〕
 A会社の解散は、純粋な意味での事業継続意思の喪失、断念ということから出たものではなく、むしろ、差押、これによるB会社など取引先との信用失墜、廃業という事態を避けるために、旧会社解散、新会社設立という法技術を利用したものであり、CらはA会社の営業の継続を強く意図し、そのために債務者を設立してその実態のほとんどを承継させたものである。その意味において、本件は、純粋な廃業による解散とその解雇という事案ではなく、逆に、旧会社(A会社)の事業を継続させるために、新会社(債務者)を設立して、この間で大半の営業、資産、負債関係を譲渡し、旧会社を解散したという事案である。
 更に、債権者による解雇への抵抗や労働組合の活動が全く存在しなかった平成六年一月末ないし二月初旬ころには既に債務者設立も視野に入れた検討がされていたこと(前認定)にも照らせば、債務者設立計画は、少なくとも当初においては、債権者や組合活動を嫌ってされたものではない可能性が高い。しかし、前認定のとおり、同年二月末から三月ころには、A会社の合理化策は、A会社の解散、債務者の設立という方向へと一気に確定していったものであり、Cの説明によれば、そのころ、調査により、A会社の再建の可能性が極めて困難であると判明したなどとされているが、前認定のとおり、債権者に対する解雇問題、組合活動の時期と一致しており、債権者の組合活動をCやDがいかに嫌っているかは本件審尋の結果から明らかである。これらを併せ考えれば、旧会社解散、新会社設立との計画が前記目的で発案されたとしても、この法的処理によれば、いったんA会社の解散により解雇し、新たに新会社への採否を決定することで、事業廃止の自由、新規契約締結の自由との主張をし、同一会社の継続中であれば当然に問題となるはずの解雇法理の適用を受けずに、債権者のような者を排除できるとの理屈もありうるのであり、債務者は右の意図も併せもって、右解散、設立の機会を利用したものと推認せざるをえない(まさに債務者は、債権者との紛争の過程において、当初から一貫して右理屈を主張をしている)。
四 以上判示した事情に照らせば、本件具体的な事案のもとにおいては、債権者としては、労働契約が債務者に承継されることを期待する合理的な理由があり、実態としてもA会社と債務者に高度の実質的同一性が認められるのであり、債務者がA会社との法人格の別異性、事業廃止の自由、新規契約締結の自由を全面的に主張して、全く自由な契約交渉の結果としての不採用であるという観点から債権者との雇用関係を否定することは、労働契約の関係においては、実質的には解雇法理の適用を回避するための法人格の濫用であると評価せざるをえない。したがって、A会社における解雇及び債権者の不採用は、A会社から債務者への営業等の承継の中でされた実質において解雇に相当するものであり、解雇に関する法理を類推すべきものと解する。〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 債務者の主張中には、債権者の社会人としての態度、債権者に対する顧客からの苦情等の点を挙げ、審尋の結果によれば、それを窺わせる兆候はなくもないが、右は多分に主観的な判断である上、債権者に技術力があることは債務者やその役員も認めているところであることなどにも照らせば、以上に判示の各事情から直ちに他の者ではなく債権者が整理解雇の対象となったことについての合理性については疎明がないというほかない。
3 以上のとおり、本件事案に解雇に関する法理を類推してみると、実質整理解雇と解されるものの、その有効性に関する要件を満たすものとは疎明されておらず、結局、本件解雇(不採用)は無効というべきである。