ID番号 | : | 06385 |
事件名 | : | 公務外認定処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 地公災基金大阪府支部長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 脳動脈瘤の基礎疾患を有する中学校教諭が、体育授業の直後に脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血で死亡したことにつき、その公務起因性が争われた事例。 |
参照法条 | : | 地方公務員災害補償法31条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1994年8月29日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (行ウ) 54 |
裁判結果 | : | 認容(確定) |
出典 | : | タイムズ871号216頁/労働判例659号42頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 地方公務員災害補償法三一条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい、単に死亡結果が公務の遂行中に生じたとか、あるいは死亡と公務との間に条件的因果関係があるというだけでは足りず、これらの間にいわゆる相当因果関係が存在することが認められなければならない(最高裁昭和五一年(行ツ)第一一号同五一年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九頁参照)。 そして、右因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験側に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る程度の高度の蓋然性を証明することであり、その立証の程度は、通常人が疑いを差し挟まない程度の真実の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつそれで足りるものというべきである(最高裁昭和四八年(オ)第五一七号同五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一四一七頁参照)。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 1に判示したところによれば、亡Aの本件脳動脈瘤破裂とその公務との間の相当因果関係の有無を判断するには、本件脳動脈瘤破裂の発症直前、とりわけ発症前日及び発症前一週間以内に、脳動脈瘤を自然的経過を超え急激に著しく増悪させ、脳動脈瘤破裂を発症させるような急激な血圧上昇を生ずるに足りる精神的身体的負荷を、同人が公務により受けたか否かを検討することが重要である。また、右負荷を受けた時における同人の身体の状態が右負荷のもたらす血圧変動の程度を左右することがあり、それ以前に受けた負荷による精神的身体的疲労の蓄積が、右血圧変動の程度を増大させる付加的な要素として作用することがあることにかんがみると、同人がそれ以前の公務により受けた精神的身体的疲労が本件発症の直前まで解消されずに蓄積されていたか否かについても付加的に考慮する必要がある。〔中略〕 2認定の事実、とりわけ、亡Aの本件発症直前の行為は同人の血圧を急激に相当程度上昇させるに足りるものであったこと、右行為の直後に本件脳動脈瘤破裂が発症したこと、本件発症前一週間の同人の職務内容は日常業務に比較して著しく過重であり、このような職務に従事することにより同人の受けた精神的身体的負荷は、それ自体、同人の血圧を急激に相当程度上昇させるに足りるものであったこと、同人は2(一)判示の著しく過重な公務による精神的身体的疲労の蓄積から回復せず、急激な血圧上昇を起こしやすい身体的状態のまま発症一週間前に至ったこと、同人の昭和五五年一一月の職員健康診断の結果によっても高血圧とはいえず、同人に高血圧やその原因となるような既往症がないこと、同人の年令(四六才)、肥満度(身長約一七〇センチメートル、体重約六四キログラム)、飲酒(日本酒一日平均約一・八合)、喫煙(一日平均二〇本)は、それ自体急激な血圧上昇の発生原因になるものとは認められず、同人にはほかに急激な血圧上昇の発生原因となるような素因や嗜好も認められないこと、同人の公務外の生活において、急激な血圧上昇の発生原因となるような精神的身体的負荷をもたらす事由の存在が認められないことを総合すると、同人は2(一)判示の著しく過重な公務による精神的身体的疲労の蓄積から回復せず、急激な血圧上昇を起こしやすい身体的状態のまま発症一週間前に至り、その後発症日までの間に2(四)判示の日常業務より著しく過重な公務による精神的身体的負荷を受け、発症当日に急激な血圧上昇の原因となり得る2(五)判示の公務上の行為をした結果、同人の血圧が急激に上昇し、同人の脳動脈瘤が自然的経過を超えて急激に著しく増悪し、本件脳動脈瘤破裂が発症したものであると推認することができる。 したがって、同人の公務は、その死亡の相対的に有力な原因に当たるものというべきであり、両者の間には相当因果関係があるものと認めることができる。 |