全 情 報

ID番号 06394
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 大阪進学スクール事件
争点
事案概要  学習塾講師の労働契約につき試用期間はおかれていなかったとされた事例。
 学習塾の教務部長として適格性を欠き、学習塾の秩序をも乱しているとして、右を理由とする解雇が相当とされた事例。
 賞与の仮払いの必要性について、これはいわゆる満足的仮処分であるから、高度の必要性が求められるが、本法ではその要件が充たされていないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
民事訴訟法(平成8年改正前)
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1994年9月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 1812 
裁判結果 却下
出典 労経速報1546号15頁/労働判例674号96頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 前記のとおり、本件雇用契約は平成六年三月一日からのものであるので、試用期間の合意があるとすれば、その前にされているべき性質のものである。
 債務者作成の報告書(〈証拠略〉)及びA作成の書面(〈証拠略〉)では、平成六年三月一五日の会議の席上、Bから債権者及びAらに試用期間であることの確認がされた旨の記載があるものの、三月一日以前の合意そのものについては、日付はもとより合意の状況についても的確な疎明がない。
 なお、債務者は、平成六年五月三一日付けの債務者からAに対する雇用契約の通知と題する書面(〈証拠略〉)及び同年六月一日付けの債務者とAとの雇用契約書(〈証拠略〉)を提出した。これらは、債務者の試用期間の主張を裏付けるかのような疎明資料である。しかし、右書面(〈証拠略〉)には、試用期間後にAとの正式の雇用契約を結ぶ理由として、「私立中学・高校への学校訪問と7月10日・17日の『有名私立中学・高校協賛入試説明会』を近畿圏の学習塾のトップを切って開催する等・・」と記載されているところ、疎明資料(〈証拠略〉)によれば、(証拠略)の作成日付である平成六年五月三一日の段階では、「7月17日の説明会」は未定であって、ありえないものであり、右(証拠略)の書面は、後日、日付を遡らせて作成された疑いが濃厚である。したがって、右各書面の信用性も乏しいというほかない。
 結局、債権者と債務者の雇用契約における試用期間の存在については、本件全疎明資料によっても疎明があったとは認めるに足りない。
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 以上みてきたことを総合すると、前判示のとおり、債務者は、急速に経営規模が拡大している他方で、組織的な充実が立ち遅れ、その管理体制の充実等が急務とされていたところ、債権者がその能力を期待され、右管理体制充実等の職務を中心に担当すべき教務部長として、いわばスカウト的に雇用されたものであるにもかかわらず、債権者にはその職責及び期待に対する自覚に欠ける面があり、他方では、かえって、独断による越権行為であると非難されても仕方のないような行為をし、対外的にも教務部長の発言としては相当性に欠ける対応をし、相当な程度を越えて自己の考えに固執し、Bに対し不適当な言動をし、一度は始末書を作成するに至ったにもかかわらず、なおも複数回にわたってBから注意を受け、同僚からも注意を受けているが、反省はみられず、かえって反発するかの言動が見られるなどという事情が認められる。しかも、右一連の問題が雇用開始からわずか三か月という短期の間に生じていることは看過できないというべきである。そして、本件疎明資料によれば、B及び債権者を含む四名で方針を合議する形式で進められている小規模な債務者の運営は、右認定の事情により、摩擦を生じ、円滑さが阻害されていることが窺える。更に、本件に現れた諸事情及び審尋の全趣旨に照らせば、右のような債権者の態度、言動は、今後改まる可能性は乏しいものと認められ、また、債権者には改める意思はないことが窺われる。
 以上の判示に照らせば、債権者は、前記の職責を有する債務者の教務部長としての適格性を欠き、債務者の秩序に対しても混乱をもたらしているものと言わざるをえず、具体的事情の下において、債権者を普通解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができない(最高裁昭和五二年一月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一二〇号二三頁参照)とまでは、いうことはできない(本件は、Bと債権者との確執であり、元をたどれば、塾の運営方針や在り方の基本的な考えや価値観の相違に基づくもので、その限りでは、Bと債権者のどちらが悪いと議論する類の問題ではないように思われる。しかし、組織運営に関し意見が対立した場合に、その最終判断をし、その結果の最終的責任を負うのは、ほかならぬ経営者のBであるというべきであろう)。
 したがって、本件解雇の意思表示が解雇権の濫用であるとする債権者の主張は採用できず、本件解雇は有効である。
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
三 解雇までの在職期間(平成六年三月一日から六月三〇日)に対応する賞与請求権の有無(争点3)及びその仮払の必要性(争点4)について
 便宜、仮払の必要性(争点4)の点から検討する。
 右金員の仮払は、いわゆる満足的仮処分であるから、高度の必要性が求められ、かつ、制度の趣旨に照らしても、金員の仮払は解雇前と同等の生活水準までを保障するものでもないと解される。