全 情 報

ID番号 06409
事件名 地位保全仮処分申立事件
いわゆる事件名 正興産業事件
争点
事案概要  高校中退を卒業と経歴詐称したことを理由とする懲戒解雇が有効とされた事例
 自動車教習所において事前通告をしないで二時間のストライキを指導した組合委員長に対する懲戒解雇が正当とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1994年11月10日
裁判所名 浦和地川越支
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 58 
裁判結果 却下
出典 労経速報1549号13頁/労働判例666号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 債務者経営の自動車教習所は、教習生に自動車運転の技術及び知識を習得させて、運転免許を取得させるように指導する公益的な役割を担った施設であり、その職務に直接従事する指導員としては高度の技術・知識・人格等を要求され、かつ、指導員は教習生及び経営者や幹部職員と善良な人間的な信頼関係を保持する必要があることを考慮すると、指導員の学歴もその職務についての適格性及び資質等を判断するうえで、重大な要素の一つであると認められ、債権者が高校中途退学者であることが雇用時に判明していたならば、少なくとも債務者は債権者を指導員見習として雇用せず、また、その後に指導員としての職務に配置しなかったと認められるから、債権者が学歴を偽って債務者に雇用されて、指導員としての職務に従事した行為は、重大な背信行為として就業規則六二条一号所定の「履歴書の記載事項を詐って採用されたことが判明したとき。」に該当して懲戒解雇の事由になり、また、債権者は、組合員野上の退職勧告等の措置の撤回を要求して、団体交渉の議題としてこれを申し入れる前に、事前の通告も行わずに、債権者を含む二三名の組合員を約二時間も運転教習の勤務に従事させないように計画、指導し、その怠業により債務者に多大な経済的損失を被らせたばかりでなく、多数の教習生に迷惑を及ぼして苦情を生じさせたことにより、債務者の信用を傷つけた行為は、同条五号所定の「故意または重大な過失により会社に損害を与えまたは会社の信用を傷つけたとき。」に該当して懲戒解雇の事由になり、右の二つの事由を合わせて考えると、情状が軽微であるとは認めることができない。そうすると、その他の懲戒解雇事由の存否について判断をするまでもなく、債務者が債権者を懲戒解雇したのは、組合活動を嫌悪して、その執行委員長である債権者を職場から追放して、組合活動の終息ないし弱体化を図る不当労働行為の意思をもってなした行為と認めるのは相当ではなく、かえって、公益的な業務を遂行する組織体としての職場秩序を保持するために、その規律違反行為に対する必要な制裁行為として行った行為であり、正当な根拠があると認められ、債権者の行為の態様、その秩序違反及び発生させた結果の重大性その他の諸般の情状を考慮すると、債務者に解雇権の濫用があったとも肯認することができない。