全 情 報

ID番号 06422
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 長野油機事件
争点
事案概要  金銭上の不正行為を理由とする懲戒解雇につき、着服横領の事実は断定できないとして懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1994年11月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 2229 
裁判結果 認容
出典 労働判例670号36頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 懲戒解雇の事由に関する事項に関し、疑問点等につき釈明させるものであるから、釈明可能な事項につき、釈明のための必要な資料や疑問の根拠を説明し、必要あるときはその資料を開示し、あるいは釈明のための調査する時間も与えるほか、解雇事由が職務に関する不正、特に犯罪事実にかかるときは、その嫌疑をかけられているというだけで、心理的に動揺し、又解雇のおそれを感じることから、心理的圧迫を与える場所や言動をしない配慮が必要であるのにかかわらず、債権者を追求した債務者の総務部長は、平成六年三月初めに債権者らに過去の切手の使用状況をチェックさせた際、「必ず不正がある」と発言して債権者に対してのみ説明を求めていたことからすると、債権者が不正をしていたものと予断を有していた可能性があること、切手の使用については前記認定のとおり債権者に管理責任も管理の実態もなく、又発信簿等の記載もなく社員が自由に使用していたものであり、債権者がその使用の実績の詳細を説明できないものであること、総務部長は過去の実績について債権者や支店長や前記A社員らの記憶を纏め作成した報告書類(〈証拠略〉)を見ており、債権者が説明できないことを認識していたこと、これらの状況を考慮せずに債権者の責任であるごとく、しかも他の顧客が聞こえる状態の喫茶店内で犯罪事実にかかる事項について説明を求めていること、この追求による債権者の心理的圧迫は相当のものであったと想像されるが、債務者はこれを考慮せずに追求をしていること等、債務者が債権者に与えた弁明機会の時期、場所、方法等は、前記配慮を欠くものであり不適切なものである。
 しかも債権者は横領の構成要件に該当する事実につき述べたことはなく、単に総務部長の問いに対し、「はい。」と答えたにとどまること、債権者は翌日には右自供を覆し以後一貫して横領の事実を否定していること、債務者の命令により過去の実績を調査する際にも、大阪支店の前記B社員を除く社員(尚本件解雇後B社員のみが残り、他は解雇、任意退職をしている。)が協力してその記憶に従い「推計額金一五五、一八〇円(三〇〇円切手は三二五枚使用)」を結論とする推計使用量を報告していることからすると、他の社員が債権者の不正を疑った形跡もないこと、債権者が横領していたとすれば、右推計額が過去の支出額と大きく異なることからこれを修正する必要があるのに自ら右報告書類を作成していること等、右自供の内容、経緯、前後の事情からすると、右自供と始末書の提出は、債務者の心理的圧迫に耐えかねたものであって債務者(ママ)の真意を表明したものとは認められず、横領の認定の資料としてはこれを容易に採用できない。
 6 以上のとおり、債務者が主張する着服横領の根拠は、平成六年三月の切手使用実績額と過去の使用実績額の相違、C会社の仕入切手と債権者の購入切手との相違、C会社の「債権者の持参した伝票「枚数」欄が鉛筆による記載であった」との陳述と債務者(ママ)の自供と始末書提出のみであるが、前記のとおりその他の事実を考慮すると、いまだ債権者が債務者主張の期間にその主張の金額を着服横領したと断定することはできず、他にこれを認めるに足る疎明資料はない。