全 情 報

ID番号 06428
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 本田技研工業事件
争点
事案概要  石けん水の入った一八リットル入りのブリキ缶を運ぶ途中に階段から転落して傷害を負った労働者による損害賠償請求につき、使用者に安全配慮義務違反はなかったとして棄却された事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1994年12月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 16941 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1549号3頁/労働判例671号62頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
2 次に、原告は、本件缶は一八キログラム以上ある重量物である上に、一週間に一度の非定常的業務であることから、これを階段で運搬することは身体のバランスを崩しやすく、他の重量物運搬に熟練した作業員に本件缶を運ばせたり、昇降器を用いる等して、原告にこれを運ばせるべきではなかったと主張する。しかし、本件缶は重さが一九・一キログラムであって、石油用一八リットル入りポリ容器に石油を満杯に入れた重量と大差はなく、この程度の重量及び容量のものならば、通常の主婦でも階段を運搬することができるものあり、特に重いものとは言えないことから、本件階段を上って本件缶を原告に運搬させること自体は、安全配慮義務に違反するということができない。なるほど、右運搬業務は一週間に一度の非定常的なものであるが、原告は本件事故に遭うまでの約半年間何らの問題もなくこの業務を行ってきたのであるから、非定常的業務であるからといって、特に危険が増すものということができない。また、原告は、事故当日、安全靴の底が特に滑りやすいと感じたことはなかったのであって、同靴には石鹸が付着していたと認めるのは困難であるし、原告は、休憩時間後に本件缶を運搬したのであるから、石鹸水で濡れた軍手を用いたものとは認め難く、さらに、手すりが滑りやすいと感じていなかったのであるから、原告が軍手や安全靴を着用して本件缶を持って階段を昇降することが危険であると認めることも困難である。
 また、本件階段の勾配も前認定判断のとおり、特段問題のあるものではないことから、被告には、本件缶を持って昇降する従業員のため本件階段を緩やかな勾配にしなければならない義務も存在しない。
3 さらに、本件事故当時原告には特にあせりや油断はなく、疲労感から集中力が鈍ったということもなかったのであるから、休憩時間とコンベア稼働の間の時間帯に本件缶を運搬させたことをもって、被告に安全配慮義務の違反があるということができない。
 その他、被告は、原告に対し定期的に安全教育を施してきたのであり、被告は原告に対する安全配慮義務を履行してきたものというべきである。
4 以上のとおり、本件階段に構造上の欠陥があったり、被告に何らかの安全配慮義務があり、これらの欠陥又は義務違反の結果、本件事故が生じたものということができない。