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ID番号 06444
事件名 賃金支払請求控訴事件
いわゆる事件名 三菱重工業事件
争点
事案概要  労働基準法上の労働時間につき、作業服及び安全保護具の着装並びに実作業に就くための所定位置までの歩行に要する時間は右労働時間に当たり、これらの行為に要した時間に対する賃金請求権が発生するとされた事例。
参照法条 労働基準法13条
労働基準法32条
労働基準法36条
労働基準法92条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 労基法違反の労働時間と賃金額
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 着替え、保護具・保護帽の着脱
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 歩行時間
裁判年月日 1995年3月15日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ネ) 16 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集46巻2号664頁/タイムズ890号131頁/労経速報1560号3頁/労働判例672号17頁
審級関係 一審/03107/長崎地/昭62.11.27/昭和60年(ワ)316号
評釈論文 山本吉人・月刊法学教室180号104~105頁1995年9月/小畑史子・ジュリスト1087号158~161頁1996年4月1日/盛誠吾・ジュリスト1076号119~121頁1995年10月1日/西村卓司・労働法律旬報1360号14~21頁1995年5月25日/石橋洋・法律時報68巻3号91~94頁1996年3月/野川忍・平成7年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1091〕183~184頁1996年6月/林豊・判例タイムズ913号336~337頁1996年9月25日
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-労基法違反の労働時間と賃金額〕
〔労働時間-労働時間の概念-着替え、保護具・保護帽の着脱〕
〔労働時間-労働時間の概念-歩行時間〕
 以上によると、被控訴人らは本来の労務提供義務と不可分一体のものとしてそれ自体を義務付けられた作業服・安全保護具等の着装を事実上拘束された状態で従事するものであるから、右着装の開始により、被控訴人らは使用者の指揮監督下に入ったものと認めることができる。
 そして、被控訴人らは右着装後、所定の準備体操場に移動するのであるが、右のとおり被控訴人らは既に使用者の指揮監督下に入っており、そのまま、本件就業規則において実作業の場所とされている所定の準備体操場に移動し、引き続き作業場に移動するのであるから、所定の準備体操場に移動する時間も当然に使用者の指揮監督下にあるものと認めることができる。
 そうすると、本件係争時間は労基法上の労働時間と解することができるから、本件就業規則のうち本件係争活動を始業時刻前に行う義務を設定した部分は労基法三二条一項(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)に違反して無効である。
 三 賃金請求権
 証拠(甲第四号証)によれば、本件就業規則三七条に基づいて定められた社員賃金規則には、賃金額は一か月の所定労働日の所定労働時間について定めたものとする旨が規定されていることが認められるところ、前記のとおり、本件就業規則のうち始業時刻前に本件係争活動を行う義務を設定した部分は無効であって、労基法一三条により労基法所定の基準に修正されることになるが、本件の場合には、本件就業規則における所定労働時間は本件係争活動と本件就業規則に定める実作業とを合わせて法定労働時間の八時間に修正され、これに伴い、右の所定労働時間に対応する一か月の賃金全額について賃金請求権が発生するものと解するのが相当である。なぜなら、被控訴人らにおいては、本件係争活動は本来の作業に入るためには必ず行わなければならないものであって、これを行うか否かを選択する余地はないのであるから、これらに整合性を持たせ、直律効をもって労働条件を規制しようとする労基法一三条の趣旨に従って、本件就業規則を修正するとすれば、本件就業規則の始業基準に関する規定は本件係争活動を始業時刻から行わせるように修正しなければならず、右のように修正されることになれば、本件係争活動は本件就業規則における所定労働時間に組み込まれ、その結果、本件就業規則における所定労働時間は本件係争活動と本件就業規則に定める実作業とを合わせて法定労働時間の八時間に修正されることになる。そして、本件係争時間が本件就業規則における所定労働時間に含まれる以上、これに対応する賃金請求権も当然に発生することになるのである。
 そうすると、被控訴人らの本件不就業時間が本件係争活動に要した時間であることは当事者間に争いがないから、被控訴人らは右により修正された所定労働時間につき労務を提供したものであって、本件不就業時間に対応する賃金についても賃金請求権を取得したというべきである。したがって、本件の賃金カットは何らの根拠もなくなされたものということができる。