全 情 報

ID番号 06459
事件名 皆勤手当請求事件
いわゆる事件名 高宮学園事件
争点
事案概要  半日年休につき、使用者が進んで半日年休を付与する取扱いをすることは労働基準法三九条により禁じられているものではなく、本件では労働慣行により半日年休制度が認められており、所属長が時季変更権を行使しなかったのであるから、後日、その取得目的や利用結果を理由としてこれを取り消すことはできないとされた事例。
参照法条 労働基準法39条1項
労働基準法39条4項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
年休(民事) / 時季指定権 / 半日年休
裁判年月日 1995年6月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 4823 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 時報1540号130頁/タイムズ889号245頁/労働判例678号18頁/労経速報1578号3頁
審級関係
評釈論文 長淵満男・判例評論447〔判例時報1558〕223~226頁1996年5月1日/土田道夫・ジュリスト1114号130~133頁1997年6月15日/野田進・法政研究〔九州大学〕63巻1号335~342頁1996年7月/柳澤旭・平成7年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1091〕185~186頁1996年6月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
〔年休-時季指定権-半日年休〕
 1 労基法三九条は、使用者は、同条所定の取得要件を充たした労働者に対し、一定数の労働日の有給休暇を与えなければならない旨規定しているが、行政解釈は、かつて「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、それ以下に分割して与えることはできない。」(昭二四・七・七基収一四二八号)としていた。その後、昭和六三年三月一四日付け通達による労基法解釈例規の全面的見直しに際し、「法三九条に規定する年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。」(昭六三・三・一四基発一五〇号)と右解釈を緩和した。
 このように、もともと労基法上の年次有給休暇は、最低分割単位を一労働日としており、半日に分割してこれを与えることを予定していないものと解されるが、有給休暇制度の目的は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることにあり、半日年休は、右目的を達成するのに、労使双方にとって便宜かつ合目的的であることから、同法は、同条の規定文言にかかわらず、使用者が進んで半日年休を付与する取扱いをすることをなんら妨げるものではないと解するのが相当である。
 《証拠略》によれぱ、被告の就業規則四一条(有給休暇の日数)は、「年次有給休暇は毎年職員に対し三月一六日より翌年三月一五日までを一年とする期間を対象に職員の勤続年数に応じ、一年間の出勤日の八〇パーセント以上出勤した者に対し、一〇日ないし二〇日の年次有給休暇を与える。」旨、また同規則四二条(年次有給休暇の届出)は、「職員は前条の規定によって年次有給休暇を受けるときは、あらかじめその時季を書面で所属長に届け出なければならない。ただし、業務の都合上やむを得ない場合には、年次有給休暇の時季を変更させることがある。」旨規定しており、半日年休を認める旨の明文の規定を置いていないが、被告では、昭和四〇年頃から職員にとって便宜であるとの理由から半日年休を認めてきており、半日年休の取得要件・手続につき、右就業規則の規定に基づき、「年次有給休暇個人票」に請求日、休暇日、休暇残日数、請求理由を記入して提出するものとし、請求理由は、「私事都合」等の抽象的なもので足りるものとし、一日単位の年休と異なった取扱いはしておらず、また半日年休を取得した場合は、右就業規則所定の年休日数(前記のとおり、法定年休の日数と同一である。)の残日数が〇・五減ずるものとする取扱いをしてきたことが認められる。
 そうすると、被告における半日年休制度は、既に確立した労働慣行となっていると認められ、同制度は、いわゆる法定外年休であるが、右就業規則の規定や取扱い実態からすると、原告ら従業員と被告との労働契約において、その要件や効果は、法定年休と同様のものとする旨約定されたものと解するのが相当である。
 2 そうすると原告らは、平成五年一二月一八日午前一一時三〇分頃、午前中の勤務終了間際に、各所属長に対し、同日午後の半日年休の請求をしたものであるが、各所属長らは、同日午後までに時季変更権を行使せず、その頃本件半日年休は有効に成立したものと認めるのが相当であり、後日、その取得目的や利用結果を理由としてこれを取り消すことはできないと解すべきである。〔中略〕
 3 そうすると、本件半日年休は有効に成立しており、被告のなした右取消(欠勤扱い)は違法・無効というべきであるから、被告は、原告らに対し、平成六年二月分の月間皆勤手当、及び平成六年度夏期賞与の減額分を支払う義務がある。