ID番号 | : | 06461 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 長栄運送事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 社有車に知合いの女性を同乗させたことを理由とする解雇につき、病院まで送ったに過ぎないので企業の秩序を乱したとはいえないこと、得意先への割引率を漏洩させたことを理由とする解雇につき、その事実は認められないとして、右解雇が無効とされた事例。 整理解雇につき、必要性、解雇回避努力、その手続についての要件を欠いており、解雇が無効とされた事例。 阪神・淡路大震災に伴い、自宅の後片付けのため一九日間無断欠勤をしたことを理由とする懲戒解雇につき、異常な事情が存する中でのことであり、むしろ組合加入を理由とする解雇であって無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 風紀紊乱 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 |
裁判年月日 | : | 1995年6月26日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成7年 (ヨ) 101 |
裁判結果 | : | 認容,一部却下 |
出典 | : | 労経速報1571号23頁/労働判例685号60頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕 前記一の疎明された事実によれば、債権者Aが平成六年三月ころ債務者会社の自動車に女性を同乗させたのは、たまたま知り合いの女性が急いでいる風であったので、勤務中ではあったが、病院まで送ったことがあるというものであって、そのことが直ちに「許可なく職務以外の目的で会社の車両を使用しないこと」(就業規則三〇条六号)、「職場の風紀を秩序を乱さないこと」(就業規則三〇条八号)に違反するものとして、懲戒解雇の事由になるものとはいえない。 債権者A、同Bの両名が課長職についてから運賃の決定権が付与されていたことはなく、両名が得意先の値引率を他に漏洩していた事実もこれを認めるに足りる疎明がないこと前記一のとおりなのであるから、右債権者両名について、就業規則四六条七号、八号により懲戒解雇の事由となるとする債務者の主張も理由がない。 債務者による債権者A、同Bについての懲戒解雇の意思表示は無効というべきである。〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕 さらに債務者は、就業規則五〇条四号の「事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」に当たるとして、債権者A、同Bの両名の解雇が整理解雇であるとする。 ところで、いわゆる整理解雇にあっては、従業員は自己の責めに帰すべき事由によらないで生活の基盤を失わしめるものであるから使用者の恣意によってなされることが許されないことはいうまでもなく、(一)人員整理の必要性の存否、(二)整理解雇を回避する手段、整理解雇回避の努力を尽くしたかどうか、(三)被解雇者の選定の合理性の存否、(四)解雇手続きの相当性、合理性の存否等について検討を要するというべきである。 債務者は、人員整理の必要性について、阪神大震災による道路事情の悪化、港湾施設の甚大な被害による港湾運送業者の業績の悪化を挙げるが、道路事情は震災直後の事情からみれば急速に改善されつつあるし、港湾施設の復旧も急ピッチでなされていることは顕著な事実であり、震災後、債権者A、同Bに対する解雇までの間に六名が退職している事実もあり、整理解雇の必要性について疎明があるものとはいいがたい。 債務者が整理解雇の回避について努力をしたかどうかについても、債権者A、同Bの両名に対し配転を提案して拒否されるや本件解雇に及んだ経緯をみれば、解雇回避努力が十分なされたものとはいいがたい。 債権者A、同Bがどのような基準で解雇の対象としたのかについて疎明が存しないし、解雇手続きの相当性、合理性についても、疎明があるとはいいがたい。 債務者の債権者A、同Bに対する解雇は、前記の疎明された解雇にいたる経緯からすれば、右両名がE労働組合に加入し分会を結成したことを嫌悪し、分会を弱体化しようとしてなされたものということができる。〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 前記一の疎明された事実によれば、債権者C、同Dの両名は、無断欠勤一四日以上に及んだ事実が存するものの、右両名が出勤できなかった理由は、もっぱら震災による両名の被害が大きかったことによるものということができる。すなわち、震災による交通機関の途絶、電気、ガス、水道などいわゆるライフラインの復旧の遅れなど、当時の震災地の異常な諸事情を考えれば、従業員のうちの少なからぬ者が震災後間もない時期に出勤している事実があるとしても、被災者個々にはそれぞれの事情が存するのであり、かかる震災地における異常な事情が存する中で欠勤が一四日以上に及んだ事実をもって、平常時の無断欠勤の場合を念頭においた従業員就業規則四六条一号にいう「無断欠勤一四日以上に及んだとき」に当たるものということはできず、右両名の職場復帰の遅れたことが、就業に関する規律に反するものではないし、職場秩序を乱すものでもなく、懲戒解雇の事由があるものとはいえない。 債務者がなした債権者C、同Dについての本件解雇にはなんら合理的な理由がなく、債権者A、同Bに対する解雇と同様、債権者らがE労働組合に加入し、分会を結成したことを嫌悪し、分会を弱体化しようとしてなされたものということができる。 |