ID番号 | : | 06462 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 山口観光事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 原告が、被告の経営する店舗に出勤し、来店する客に対し、マッサージを行い、客一人につき二一〇〇円又は一四〇〇円の歩合給を当月末まで支払うことを約した雇用契約であるとされた事例。 振替えにつき、就業規則は、前日までに振替えによる休日を特定して従業員に通知する旨定めており、同日に出勤を命じたとしてもこれに応じる義務はないとし、右命令拒否は懲戒事由に該当しないとされた事例。 欠勤を理由とする懲戒解雇につき、上司の了承を得たものとして懲戒理由には該当しないとされた事例。 客からのマッサージの力が弱いなどの苦情が頻繁にあったとは認められないとし、老衰などを理由とする解雇につき、解雇事由の存在は認められないとされた事例。 年齢を理由とする経歴詐称につき、職種がマッサージであることに鑑み、懲戒解雇事由に該当し、権利濫用に当たらないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働基準法35条 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / マッサージ師 休日(民事) / 休日の振替え 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 解雇(民事) / 解雇権の濫用 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1995年6月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 7797 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1571号9頁/労働判例686号71頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-マッサージ師〕 1 当事者間に争いのない(証拠略)によれば、本件契約は、原告が、被告の経営する本件店舗に出勤し、来店する客に対し、マッサージを行い、被告が原告に対し、客一人につき二一〇〇円(四五分コース)又は一四〇〇円の歩合給を、毎月二五日締め当月末日払の約定で支払う旨の雇用契約であったことが認められる。 2 被告は、本件契約が雇用契約でない旨主張し、被告代表者本人尋問の結果中には、これに沿うかのような供述部分もあるが、原告に交付された本件契約の契約書(〈証拠略〉)は、雇用契約書という表題の下に原告の就労条件が記載されていること、被告は、本件契約期間中、原告に毎月交付する金員について、給与明細書を作成して、原告に交付した上、右給付額から所得税の源泉徴収(〈証拠略〉)、社会保険、雇用保険(〈証拠略〉)の控除をしたこと、被告の従業員を対象とする就業規則(〈証拠略〉)が原告にも適用されたこと、被告は、原告の出勤退勤をタイムカードで管理していたこと(〈証拠略〉)及び1判示の証拠に対比すると、右供述をもって右認定を覆すに足りず、ほかにこれを左右するに足りる証拠はない。 3 したがって、本件契約が雇用契約でないことを前提とする被告の右契約解除の主張は、採用できない。 〔休日-休日の振替え〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 仮に、被告主張のとおり、被告代表者が、同日、原告に対し、同日出勤するように命じ、原告がこれに応じなかったとしても、同日が就業規則所定の休日であり、原告が同日休むことは、従来から、原、被告とも予定していたこと、被告の就業規則は、業務の都合上やむを得ない場合には、被告は、就業規則所定の休日を一週間以内の他の日と振り替えることができる旨定めているが(一三条一項)、右振替えは、前日までに振替えによる休日を指定して従業員に通知すべき旨を定めていることなどの点に照らすと、原告が同日右命令に応じて出勤しなかったとしても、これが、就業規則所定の懲戒事由である「業務上の指揮命令に違反したとき」に当たると解することはできず、仮に原告の行為が右懲戒事由に当たると仮定しても、右判示の点に、原告が、同日、勤務による疲労が蓄積して休養を取っており、翌日から二日間の休暇を申し出るような身体状態にあったことなどの点を考え併せると、その情状が、決して重いものではなく、これを理由に懲戒解雇をすることが許されないことは、明らかである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 被告が、原告の右欠勤について、従来、懲戒処分を課するなど、これを問題にした形跡がないこと、被告代表者も、原告の平成五年一月九日から二月五日までの欠勤について、後日歯科医の診断書が提出されたことを自認すること(〈証拠略〉)、(証拠・人証略)を総合すると、(一)判示の欠勤については、原告はいずれも上司の了承を得たことが認められ、右判示の証拠及び事実に照らすと、(一)の供述及び(証拠略)の記載はこれを採用することができず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。 そして、原告が同年八月三一日の出勤命令に従わなかったという被告の主張事実を認めるに足りないことは、前判示のとおりであるので、原告について、就業規則所定の懲戒事由である「正当な理由なく、しばしば無断欠勤し、業務に不熱心である」という事実は認めるに足りない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務能力〕 被告代表者が作成した、原告の就労請求に対する回答書(〈証拠略〉)中には、本件解雇の理由として、被告主張の右苦情があった旨の記載がないこと、被告代表者は、本件解雇の意思表示をした際にも、右苦情について言及していないこと、(証拠・人証略)に対比すると、(一)の供述及び(証拠略)の記載をもって、原告について、老齢と体力不足から、客からマッサージの力が弱いなど苦情が頻繁に出されていたことは、認めるに足りず、ほかに、原告について、就業規則所定の普通解雇事由である「身体または精神の障害により、業務に耐えられないと認められる場合」、「老衰その他の事由により能率が著しく低下した場合」、「就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」に該当する事由があるとは認めるに足りない。 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 四 予備的解雇の効力 1 被告が、平成六年四月一一日、原告の被告に対する地位保全等仮処分事件の答弁書において、本件解雇が無効な場合、原告がその採用の際、提出した履歴書に虚偽の事実を記載したことを理由に懲戒解雇の意思表示を行い、右意思表示が同日原告に到達したこと、原告が、本件契約締結に際し、生年月日が、昭和九年七月二五日であるにもかかわらず(五七歳三月)、生年月日を昭和二一年七月二五日(四五歳三月)と記載した履歴書(〈証拠略〉)を被告に提出したこと、被告の就業規則が、従業員が「重要な経歴をいつわり、その他不正な手段により入社したとき」(三七条一号)は、制裁を行う、制裁は、その情状により、訓戒、減給、出勤停止、懲戒解雇を行う(三八条)旨定めていることは、前判示のとおりである。 2 以上の事実及び被告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、被告への入社に際し、被告が採否の判断の前提とする履歴書に虚偽の事実を記載したものであり、企業秩序の根幹をなす、使用者と従業員との間の信頼関係を著しく損なうものである上、被告の就業規則が従業員の定年を六〇歳とし、定年に達した日の月末をもって、雇用関係が終了する旨定めていたのであるから(二八条)、原告は、定年までの雇用関係の継続予定期間が、約二年九か月しかなかったにもかかわらず、一四年九か月もあると偽ったことになり、また、原告の担当業務内容がマッサージの実施であり、相当程度の体力を要するものであること(現に、本件解雇当時、原告は、マッサージ業務により、疲労を蓄積させ、体調がすぐれない状態に陥っていた。)にかんがみると、原告の右経歴詐称の内容は、原、被告間の雇用契約の継続期間の見込みを誤らせ、被告の今後の労働者の雇用計画や原告の労働能力に対する評価を誤らせ、被告が、その従業員の労働力を適切に組織することを妨げるなど被告の経営について支障を生じさせるおそれが少なくなく、原告が真実の年齢を申告したとすれば、被告が原告を採用しない可能性が多分にあり、被告の企業秩序を著しく害するものであって、その企業秩序を回復するには、不正な行為により生じた雇用関係を解消する以外の方法によっては困難であることが認められる。 3 したがって、原告の右行為は、就業規則所定の懲戒事由である「重要な経歴をいつわり、その他不正な手段により入社したとき」に該当し、その情状からしても、懲戒解雇事由に当たるものというべきであり、右解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できないということもできないのであるから、解雇権の濫用に当たるものでもない。 |