ID番号 | : | 06476 |
事件名 | : | 出勤禁止処分効力停止等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 西日本鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 自動車運送業を営む会社で自動車運転士兼車掌として勤務する労働者が所持品検査を受けた際に免許証入れの中から現金七〇〇円が発見されたことを理由として就業規則に基づき懲戒解雇をするための事前措置として受けた出勤停止処分の効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1973年4月3日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和47年 (ヨ) 733 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例175号75頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 出勤禁止処分が相当であると評価されるためには、まず、出勤禁止処分に付する当時において会社が知り、または相当の注意をもってすれば知り得たであろう資料に基づいて、客観的、合理的に判断して懲戒事由の存することが十分に認められること、次に、前記のとおり出勤禁止は懲戒処分をなすための事前手続であり、しかも後記七記載のごとく、右処分は、その期間従業員に対し就業を拒み、また平均賃金の六〇パーセントの賃金しか支給せず、またその期間内に賞与の支給日が到来した場合には、従来の慣行を理由に全額その支給をしない等、その生活に相当の不利益を与えるものであるから、出勤禁止処分に付するかどうかの裁量権の範囲にはおのずから客観的制約が存するものというべきであり、その裁量権を行使するに当っては、制度の趣旨を逸脱しないようにその限度を守るべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-所持品検査〕 被申請人は申請人が当初所持していた現金の額が証明されない以上、たとえ費消部分について裏付けがあったにせよ、現に携帯ないし所持している金銭が私金であるとの証明がついたことにはならないと主張する。しかしながら、就業規則(疎乙第二号証)による限り、その第六〇条第一三号は、従業員が私金の携帯所持の禁止に違反して現金を携帯、所持していた場合に、当該現金が私金であるかどうかを第一次的に問題とする趣旨であって、一般的には当初の所持およびその金額、またもしそれを中途で費消した場合は、さらにその費消行為とその額をそれぞれ証明しない限り、現に所持している現金が私金すなわち当初の所持金そのものないしはその残金であることを証明したことにはならないと言いうるであろうけれども、理論上はそれはあくまでも直接の証明の対象ではないことは明白であり、しかも本件にあっては通常の場合とやや事情を異にする。すなわち、被申請会社が申請人を出勤停止に付し、懲戒解雇を労働組合に提案するに当たって、その根拠とした資料と称する(証拠略)によれば、なるほど申請人は、所持品検査に引き続いて行なわれた取調べに際し、右現金は前記四の2記載のとおり紛失したと思い込んでいたものであり、ガソリン購入の件は前記ガソリンスタンドおよび丁度その場に来合わせたAに聞いてもらえば判るし、また太宰府での買物およびその代金をまけてもらった件についてはBおよびみやげ品店を調べてもらえば、事情は判明する旨申し述べたため、当日直ちに太宰府に赴いたが、すでに境内のみやげ品店は閉店しており、どの店か確認できず、そのまま帰社したこと、Bに対して電話連絡したところ、二〇日の日に申請人に友人を太宰府に案内してもらった際、申請人がそこで現金を落したといって探したが暗くて見付からなかったといっていた事実がいちおう認められるだけである。しかし、右資料には直接あらわれていないが、(証拠略)によれば、被申請会社においては、翌二三日改めてBおよび太宰府のみやげ品店「C」に直接当って調査した結果、C商店でも、二〇日夜刀と鉛筆で四六〇円を買った男に対し、同人がお金を落として四五〇円の持ち合わせしかないとの理由で一〇円負けたことを申し述べたため、被申請会社においても申請人が太宰府で買物をした事実については間違いないものと判断していたことがいちおう認められるところ、これらの事実と、上記認定のガソリンスタンドにおける給油の事実ならびに、所持品検査の際の申請人の態度、特に検査員が免許証入れから出てきた現金を申請人に示すや、同人が「あ、このお金はいとこに聞いてもらえばわかります。太宰府の店に尋ねてもらえばわかります。店で買物をしましたから、落としたと思っていました。」と直ちに応答した事実(疎乙第六号証参照)と照らし合わせただけでも、当該現金は、申請人が当初いくら所持していたかという事実といちおう切り離してみても、申請人がしまい場所を失念し紛失したものと思い込んでいた現金(即ち私金)に外ならないことが容易に判断できるのであって、それを当初の現金の所持が家族によって証明されていないとか、供述が変転したとかの理由をもって、私金の証明がついたとはいえないと否定し去ることは、従業員に対し不可能を要求するものとして悪魔の証明を強いるものでないとすれば、全くのいいがかりであると断定せざるを得ず、とうてい就業規則第六〇条第一三号の合理性、客観性のある解釈とはいい得ない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 以上の次第であるから、申請人に対する本件出勤禁止処分は、爾余の点につき判断するまでもなく、被申請会社就業規則第六〇条第一三号の懲戒事由がないのになされたものとして、本来予想される懲戒処分(前記のごとく就業規則第五九条第一七号違反の懲戒処分は出勤停止以下の処分があるにすぎない。)との均衡を失し、且つ被申請会社における従来の就業規則第八条(出勤禁止)第七号の運用の経過に照らしても、著しく苛酷な不利益処分として裁量権の行使を誤った無効のものと断ぜざるを得ない。 |