全 情 報

ID番号 06505
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 日本通運事件
争点
事案概要  運送会社から業務を請負うグループに所属しつつ、軽自動車持ち込みで宅配・仕分け作業を行っていた者が、右運送会社から業務依頼を中止されたのに対して、右運送会社との間に労働契約が存在することを前提に仕事に来なくていい旨の意思表示は解雇であると主張して、労働契約上の地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
裁判年月日 1995年2月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 1538 
裁判結果 却下
出典 労働判例680号81頁/労経速報1585号15頁
審級関係
評釈論文 野間賢・法律時報68巻10号104~107頁1996年9月
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
 本件につき債権者と債務者の間に雇用関係があったか否かについて判断するに、右一の事実によれば、Aグループは、もともとは、債務者から配送業務を請け負っていた運送業者の従業員であった者が、引続き債務者の業務を行うため結成したものであり、平成四年三月Aグループと債務者の間で作業請負契約書を作成しているが、その前後で債務者とAグループの関係に変化はないこと、Aグループには人数の出入りがあるがその人選についてはAグループにおいて行い、債務者は直接関与していないこと、債権者が債務者の仕事を始めるにあたっても、AグループのBらと話をして決定したもので、債権者が債務者との間に直接契約書を交わしたり、労働者としての採用を告知されたなどの行為がないのはもとより、債権者と債務者との間に直接契約内容もしくは労働条件等の交渉をしたこともないこと、Aグループに対する報酬の計算方法は、前記のとおりであるが、一括してBの口座に振り込んで支払われ、これをAグループにおいて各メンバーにそのまま支給するのではなく、Bが一部差し引いて(Bが取得するほか、Aグループで負担した制服等の費用や、事故の損害填補分に当てられたと解される。)計算したものがメンバーに支払われていたこと、Aグループが行う業務のメンバーへの割り振りは、Aグループ内で決められ、債務者は関与していないこと、Aグループに依頼された荷物のうち、車両に積めないものの他、積めても効率が悪い場合にはこれを積まずに拒否することもあったこと、Aグループには妻に配送仕分け作業を手伝わせていた者もあったが、これについて債務者が異議を述べたり妻の分の報酬を支払ったことはないこと、債務者において配送の運行経路につき運行管理を行っていないことなどの事実を総合すれば、債権者は債務者の業務に従事していたとはいえ、それが、債務者との雇用関係に基づくものとはいい難い。
 債権者と債務者の間に雇用関係があるか否かは、契約の形式のみによらず、実態に即して、実質的賃金の支払、使用従属関係の存否を基準にして判断するのが相当であり、右一に認定の事実によれば、債権者は、毎日午前八時までに債務者の作業所に出て荷積み、配送にあたり、配送途中にも連絡指示のためポケットベルの呼び出しを受け、作業所に電話をして債務者従業員の指示を受けることもあり、仕分け作業においては債権者は債務者の従業員とともに業務を行っていたものであって、債務者のフォークリフトを使用したり、債務者従業員の分を含めて夜食の買い出しに行ったこともあり、また、仕分け作業につき債務者がAグループに支払っていた報酬は、従事時間により計算されていたものであって、以上の点においては実質的な賃金の支払、実質的使用従属関係があったともみられる部分もあるが、配送先や配送指定時間に関する連絡指示は請負における注文においても必要なものであり、ポケットベルによる呼び出しやこれに応じた電話連絡に応対する者が債務者従業員であっても、Bから依頼を受け、もしくは急ぐため直接指示していたものともいえ、また、仕分け作業を配送担当者ごとに分けず、債務者従業員が配送するものもAグループ等が配送するものも一緒に作業していたのは、これを区別することが効率上困難なためにすぎず、そうするとこれにともない債務者のフォークリフトを使用したり夜食の買い出しに行ったりすることがあっても、ただちに雇用関係特有の使用従属関係ということもできず、また、報酬も、誰がいくつの仕分けをしたかを把握するのが困難なため時間建ての出来高制に設定されたもので、仕分け作業は、その性質上及び報酬の面からも、配送業務に付随するものにすぎないので、これらをもって、債権者と債務者との間の賃金の支払及び実質的使用従属関係を一応にせよ認めるには足りない。