ID番号 | : | 06510 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 片山組事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 建築工事現場で現場監督業務に従事してきた労働者が、病気のため現場監督業務に従事できないとしたのに対して、会社が自宅待機を命じ賃金を支給しなかったことは不当であるとして賃金を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法536条2項 労働基準法3章 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 欠勤による不就労 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 債務の本旨にしたがった労務の提供 |
裁判年月日 | : | 1995年3月16日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成5年 (ネ) 3760 |
裁判結果 | : | 認容(上告) |
出典 | : | 労働民例集46巻2号689頁/労働判例684号92頁 |
審級関係 | : | 一審/06166/東京地/平 5. 9.21/平成4年(ワ)3832号 |
評釈論文 | : | 川田琢之・ジュリスト1104号185~188頁1997年1月1日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-欠勤による不就労〕 〔賃金-賃金請求権の発生-債務の本旨にしたがった労務の提供〕 労働者が、その故意若しくは過失に基づくことなく、また、使用者との雇傭契約に基づいて従事していた業務に起因することなく罹患した病気(以下「私病」という。)のため、右雇傭契約に基づいて使用者に対して提供すべき労務の全部又は一部の履行が不能となった場合、当該雇傭契約又は労働協約等において、当該労働者が使用者に対し、賃金の全部又は一部を請求することができる等の定めがあるときは格別、そうでない限り、労務の全部の提供ができず履行不能となったときには、労働者は使用者に対し、賃金債権を取得する余地はないと解すべきであり(民法五三六条一項)、労務の一部のみの提供が可能であるが、その余の労務の提供ができないときには、右可能な部分の労務のみの提供は、労働者の雇傭契約上の債務の本旨に従った履行の提供とはいえないのであるから、原則として、使用者は右労務の受領を拒否し、賃金支払債務を免れうるものというべきであるが、提供不能な労務の部分が右契約上提供すべき労務の全部と対比して量的にも質的にも僅かなものであるか、又は、使用者が、当該労働者の配置されている部署における他の労働者の担当労務と調整するなどして、当該労働者において提供可能な労務のみに従事させることが容易にできる事情があるなど、継続的契約関係にある使用者と労働者との間に適用されるべき信義則に照らし、使用者が当該可能な労務の提供を受領するのが相当であるといえるときには、使用者は当該労働者の提供可能な労務の受領をすべきであり、使用者がこれを拒否したため、当該労働者が労務の提供をすることができず、その履行が不能となったとしても、右労働者は履行したとすれば雇傭契約に基づき取得しうべき賃金債権等を喪失するものではないと解するのが相当である(民法五三六条二項)。そして、労働者が、使用者に対し、私病を理由として、労務の一部のみの提供が可能であるが、その余の労務の提供ができない旨の申出をし、債務の一部の履行拒絶の意思を明らかにしたときには、使用者において、右労務の提供を受領すべきかどうかの判断にあたっては、当該私病の性質・程度、当該労働者の担当する労務の内容等に照らし、右労働者の申出に疑念をもつのが相当といえる事情のない限り、使用者としての立場から格別の医学的調査を経ることを要するものではないというべきである。 また、使用者が、私病に罹患した労働者の提供する労務を当該雇傭契約上の債務の本旨に従ったものではないとして、その受領を適法に拒絶した場合においては、その後、右労働者が、当該私病が治癒又は軽快し、右債務の本旨に従った労務の提供ができる状況になったことを使用者に明らかにし、その受領を催告しない限り、右雇傭契約に基づく賃金債権等を取得する余地はないというべきであり、使用者において、自ら進んで、当該労働者の私病につき医学的調査をして、就労することができるような状況になったかどうか等を検討し、かかる状況になったときには、就労を命ずるべきであるとの義務を信義則上も負うとはいえないものと解すべきである。〔中略〕 右認定の事実関係によれば、本件不就労期間中、本件工事現場において、A課長以外の現場監督者の担当する現場監督業務の主要な内容は質、量とも現場作業がほとんどであり、事務作業は補足的なものに過ぎず、また、現場作業に従事することなく遂行できる事務作業は量的にも僅かなものであるから、被控訴人が現場作業に従事することなく遂行可能な補足的事務作業に係る労務を提供することが可能であったとしても、控訴人において、他の現場監督者の担当する右補足的事務作業を被控訴人に集中し担当させても、量的には僅かなものであり、信義則上被控訴人に集中して担当させる措置をとって被控訴人に担当させることが相当であったとはいえないものというべきである。 |