ID番号 | : | 06511 |
事件名 | : | 契約金等返還請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 医療法人北錦会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | パート看護婦が、病院から「約定期間満了前に退職した場合には返還する」との約定で契約金として採用時に交付されたとされる金員の返還を求められた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法5条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 賠償予定 労基法の基本原則(民事) / 強制労働 |
裁判年月日 | : | 1995年3月16日 |
裁判所名 | : | 大阪簡 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成5年 (ハ) 8964 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例677号51頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-賠償予定〕 本件契約金は、契約期間の勤続を条件として給付された金員であり、被告主張1の〔1〕ないし〔3〕の事実を認めることはできるが、それ故にこれを実質的賃金であると断定するには至らない。 反面、これを勤務期間満了時に報償金に引き当てることを条件とした預託金又は貸金と解することもできない。 すなわち、本件契約金については、約定期間満了前に退職した場合には返還するとの約定以外には約定がなく、その交付の原因・目的、約定期間満了時における返還の要否、返還方法等が明らかにされておらず、被告にその必要があって同人自らがその交付を申し入れたものでもなく、かえって不要とした被告に対してA院長が『持っていて邪魔にならない。二年したら更新すればよい。』旨を述べ、原告側の内部施策(被告に限らず看護職員の大部分が本件同様の契約をしており、その契約書は定型化されているなど、原告及びB病院が一般的な施策としているものと認められる。)に従って機械的に契約・給付されたものであり、特定の目的及び返還約束を含むべき通常の預託金又は貸金(いわゆる前借金)とは解されないからである。〔中略〕 ところで同契約では、当初三か月間及び退職申出後一か月間の退職制限はあるものの、途中退職の禁止は明示しておらず、雇用期間についても一応一年間として更新できるものとし、その上で二年間の勤続を条件に本件契約金を支給するものとしており、その限りで形式的には労基法五条、一四条に違反していないものといえる。 しかしながら、本件パート契約では、二年内の被告の中途退職を契約不履行としており、本件契約金の返還のほか、その二割相当額を違約金として原告に支払う旨の約束がされており、右約束は実質的には被告に二年間の労働期間を約束させたものであり、労基法一四条に違反する労働期間の合意であると理解され、かつ、違約金を定めた点で同法一六条違反の契約である。 〔労基法の基本原則-強制労働〕 労基法五条が定める「労働者の精神または身体の自由を拘束する手段」とは精神の作用又は身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいい、「不当」とは社会通念上是認しがたい程度の手段と解されている。 ところで、本件契約では看護婦免許証を原告に預けることが約束されており、本件契約金の返還及び違約金の支払約束と一体となって被告の退職意思に威圧的効果を生じ、被告の足止め策に利用されていたものと認めることができる。 このことは、被告の退職時に、本件契約金等の返還と看護婦免許証の引換え交付を理由に退職の撤回ないし復職を執拗に企図し、また、C病院の実権者と認められるA経営のB病院におけるD準看護婦の退職時やEのC病院退職の際の契約金、看護婦免許証等の返還を巡る紛争など、(人証略)、被告供述等により明白である。 そして右事実は、説示の「不当な拘束手段」に該当するものと解され、本件契約金の返還及び違約金の支払約束、看護婦免許証預け入れの約束は一体として労基法五条に違反する契約であるといえる。 |