全 情 報

ID番号 06514
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 川中島バス事件
争点
事案概要  バス料金三八〇〇円を着服したとして懲戒解雇された定年を間近に控えたワンマンバス運転手が、右懲戒解雇は解雇権の濫用であるとして解雇無効確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1995年3月23日
裁判所名 長野地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 40 
裁判結果 棄却
出典 労働判例678号57頁/労経速報1586号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 原告が所持していた千円札四枚のうち三枚が被告の監査室が記号及び番号を控え、AとBが使用した三枚と一致する事実、被告の監査室が撮影した(証拠略)のビデオテープの画像には原告が運賃箱の右側(紙幣両替器付近)から何かを取り、左手を上着又はズボンの左ポケットに入れたと見て差し支えない動作が記録されている事実、本件事件後に被告本社監査室において本件バスから取り外した大金庫及び札金庫を原告の面前で解錠して開いたところ、大金庫の中には札が一枚もない状態であった事実、原告が所持していたとする私金の金種、千円札を料金箱に入れたとする枚数及び時期についての原告の弁明内容が変遷し、かつ、原告が所持していた千円札四枚のうち三枚がAとBが使用した三枚と一致する点について合理的な説明を行い得なかった事実を総合すると、原告が右三枚の千円札をバス料金として料金箱に入れることなくポケットに入れ、着服したものと認めることができる。
 そうすると、原告が私金で千円札の両替を行ったために右三枚の千円札と原告の所持金及び私金として取得すべき分の千円札とが混在してしまった旨の原告本人の供述は、客観的証拠に合致しない虚構のものというべきであり、AとBの観察結果(〈証拠略〉)を真実に合致するものとして採用すべきであるから、原告が所持していたL170453Mの千円札についても、原告がC交差点付近で女性客から両替を頼まれ、D停留所において他の降客から受け取った料金の中から釣り銭を渡したものと認められる。したがって、右千円札についても、バス料金として料金箱に入れることなくポケットに入れ、着服したものと認めるのが相当である。
 以上によれば、原告は、所持していた千円札四枚合計四〇〇〇円からBに釣り銭として渡した百円硬貨二枚合計二〇〇円を除いた差引合計三八〇〇円について着服したというべきである。〔中略〕
 バスによる旅客運送業を目的とする被告にとって、バス料金の適正な徴収は会社経営の基礎であること、ワンマンバスにおいては、料金収入額に関する的確な証拠書類は存しないから、運転手の右料金徴収業務に関する誠実性が強く要求されるところ、原告は、これに反して一仕業のバス料金としては決して寡額とはいえない三八〇〇円を着服したこと、被告における料金着服事案に対する他の処分(前記一3(一))と比較して重きに失するとはいえないことなどから、本件解雇処分が原告の定年退職日までの休暇に入る直前に行われたとしても、解雇権濫用とは認められない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 懲戒解雇は、当該労働者にとって労働者たる地位の得喪に係る重大事項であるから、被告の就業規則(〈証拠略〉)一八九条が、懲戒に処すべき行為があると認めたときは所属長は本人に顛末書を提出させる旨を定めている(この点について労働協約は別段の定めをしていない。)趣旨からも、懲戒事由の存否について何らかの形で本人の弁明を徴する必要があるというべきである。
 もっとも、どのような形で本人の弁明を徴するかは、労働協約の定めの趣旨に従って決すべきところ、被告の労働協約は、組合との協議に重点を置いているところから、本人の弁明は、主として組合側委員を通じて人事委員会の協議に反映されることを予定しているものであり、必ずしも本人の出席を必要としているものとは解されない。そうすると、本人の出席が不要である以上、被告が、人事委員会開催の通知、懲戒申立書及び審議調書の開示を行うことも不要というべきである。これらについては、組合側委員を通じて本人が了知することが当然できるはずである。