全 情 報

ID番号 06516
事件名 労働災害保険給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 茨木労働基準監督署長(西武運送)事件
争点
事案概要  運送会社のターミナルにおいて荷物の積降ろし作業中に、二〇キログラムの荷物を持ったまま転倒した後に発症したトラック運転手の急性心筋梗塞につき、業務起因性の存否が争われた事例。
参照法条 労働基準法76条
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1995年3月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行ウ) 20 
裁判結果 棄却
出典 労働判例679号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 二 労災保険法に基づく休業補償給付がされるためには、労働者が業務上疾病にかかること、すなわち、その疾病にかかったことが業務に起因する(以下「業務起因性」という。)と認められることが必要であり(労災保険法一二条の八、労働基準法七六条、七五条)、この業務起因性が認められるためには、単に疾病にかかったのが業務の遂行中であるとか、あるいは疾病にかかったことと業務との間に条件的因果関係があるというだけでは足りず、これらの間にいわゆる相当因果関係が存在することが認められなければならない(最高裁昭和五一年(行ツ)第一一号同五一年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九頁参照)。〔中略〕
 前判示のように、原告の胸部には、皮膚変化や外傷が認められなかった上、原告は、本件転倒事故後、Aに対し、胸部の痛みや胸部打撲などについて言及せず、積直し作業を続行し、積込作業を手伝い、停車位置移動のため、自らトラックを運転するなどの行動をしていることからしても、原告が胸部及び背部に(一)にあるような大きな外力を受けたものとは考え難いこと、2判示のように、本件転倒事故当時、原告の動脈硬化が相当進行しており、日常生活による自然的経過に伴う右病変の増悪のみによって急性心筋梗塞等が発症したとしても不自然とはいえないような身体的状態にあったこと、本件転倒事故から本件発症まで約三〇分の間隔があったことなどの点も考え併せると、本件転倒事故の際に原告の胸郭内の心臓及びその周囲の血管に対して作用した力の大きさは、前記のような長さを有する棒状の均質な物体が足と地面が接触する地点又は尻餅をついた地点を支点として回転運動をして倒れた場合に右物体に作用する力の大きさと同一であるとは認めるに足りず、したがって、本件鑑定結果及び(証拠略)の記載は、本件と前提を異にするものであって、右鑑定結果をもって、本件転倒事故が本件心筋梗塞発症の原因であると認定するには不十分であるといわざるを得ない。〔中略〕
 五 一ないし四の事実を総合すれば、原告の本件転倒事故又は原告の業務の遂行が、原告の基礎疾患である前記認定の冠動脈の病変を自然的経過を超えて急激に増悪させ、本件急性心筋梗塞を発症させた相対的に有力な原因又は共働の原因になったものとは認めることができず、むしろ、本件急性心筋梗塞等は、原告の右冠動脈の病変が自然的経過により増悪して、その勤務中に発症したものと推認するのが相当である。