ID番号 | : | 06520 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 京都南労働基準監督署長(北信運輸)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 運輸会社の長距離トラック運転手が脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血により死亡したケースで、その業務起因性の存否が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条2項 労働基準法79条 労働者災害補償保険法12条の8第2項 労働基準法施行規則別表1の2第9号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1995年4月27日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成5年 (行コ) 31 |
裁判結果 | : | 取消,認容 |
出典 | : | タイムズ893号146頁/労働判例679号46頁 |
審級関係 | : | 一審/京都地/平 5. 3.19/平成1年(行ウ)7号 |
評釈論文 | : | 佐藤進・ジュリスト1089号337~339頁1996年5月1日/島岡大雄・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕394~397頁1997年9月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 1 死亡した労働者の遺族が労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に定める遺族補償給付を受給するためには、当該労働者が「業務上死亡した」ことが必要であり(労災保険法一二条の八第二項、労働基準法七九条)、右の「業務上死亡した」とは、労働者が業務により負傷し、または疾病にかかり、右負傷または疾病により死亡した場合をいい、業務により疾病にかかつたというためには、疾病と業務との間に相当因果関係がある場合でなければならない。そして、右の相当因果関係があるというためには、必ずしも業務の遂行が疾病発症の唯一の原因であることを要するものではなく、当該被災労働者の有していた病的素因や既存の疾病等が条件または原因となつている場合であつても、業務の遂行による過重な負荷(以下「業務の過重性」という。)が右素因等を自然的経過を超えて増悪させ、疾病を発症させる等発症の共働原因となったものと認められる場合には、相当因果関係は肯定されると解するのが相当である。 なお、被控訴人は、本件のような脳血管疾患の場合の業務起因性の認定は、昭和六二年の認定基準によるべきである旨主張するが、右認定基準は、業務上外認定処分を所管する行政庁が処分を行う下級行政機関に対して運用基準を示した通達であつて、業務外認定処分取消訴訟における業務起因性の判断について裁判所を拘束するものではないから、被控訴人の右主張は採用できない。〔中略〕 6 自動車運転者の業務の過重性をいかなる目安によつて量るかは、さまざまな議論があり得るところであるが、改善基準は、自動車運転者の労働条件について最低基準を定めることによつて、労働条件の改善向上を図り、併せて過労等に基づく交通事故の防止に寄与することを目的としたものと解されるから、改善基準が業務の過重性判断のひとつの指標となり得るものというべきである。〔中略〕 証拠(〈証拠略〉)によると、Aは、死亡時より十数年前に高血圧が指摘されたことがあり、また、一日に日本酒二合位を飲み煙草二〇本を喫つていたことは認められるが、これらが特に血管壁ないし脳動脈瘤壁の脆弱性を促進させるべき要因となつたことを窺わせる証拠はないし、その他Aの私生活においても、特に血管壁等の脆弱性を促進させる要因が存したことを認めさせる的確な証拠はなく、同人の死亡時の年令(四一才)からすると、加齢及び日常生活上の負荷による自然的経過のみによつて脳動脈瘤破裂に至つたとは考え難い。 8 右一及び二の認定、判示並びに証拠(〈証拠・人証略〉)を併せ考えると、前記過重性が認められる業務の遂行によつて、血管壁の修復過程に不可欠な睡眠による血圧の低下を十分に得ることができず、しかも夜間、長時間にわたる長距離トラックの運転という過度の緊張状態-副交感神経優位の状態-に伴い種々の血管壁に対する攻撃因子が増大し血管壁の損傷を加速し、障害過程が修復過程を上回った状態を進行させたため、Aの基礎疾病である脳動脈瘤の血管壁は自然的経過を超えて急激に脆弱化され、本件発症当時には破裂準備状態に至っていたところ、東京(略)に到着後の短い仮眠後荷卸作業に従事したことにより血圧が急激に上昇し、これが直接の誘引となつて右破裂準備状態にあつた脳動脈瘤を破裂させて、くも膜下出血を発症させ、同人を死亡に至らしめたものと認めるのが相当である。 そうすると、本件発症は、Aの基礎疾病と過重な業務の遂行が共働原因となつて生じたものということができるから、Aの死亡と業務との間に相当因果関係が存することを認めることができる。 |