ID番号 | : | 06535 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 吉野事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 競業会社の設立・経営およびその事業活動に積極的に関与したことを理由に懲戒解雇された会社の元常務取締役等が、退職金規程に基づき退職金を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法3章 労働基準法89条1項3号の2 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 競業避止と退職金 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1995年6月12日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成4年 (ワ) 4522 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 労働判例676号15頁/労経速報1576号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 右認定事実によれば、被告会社東京支店において、正規の退職金規程が制定されていたということはできないが、当初に案として作成・書面化された本件退職金規程に基づいて退職金を支給する実績が積み重ねられることにより、右支給慣行は既に確立したものとなったと認められ、これが被告会社と原告らの雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。 〔賃金-退職金-競業避止と退職金〕 前記三・1に認定した事実によれば、被告会社においては、本件退職金規程に基づく退職金支給の慣行とともに、「懲戒その他不都合のかどにより解雇され、または退職したには退職金を支給しない。」(五条)との確立した慣行が成立していたものと認められる。もっとも、右慣行は、従業員の長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合に退職金を支給しないとの趣旨の限度で有効であると解すべきである。 そこで、これを本件についてみると、前記1に認定した事実によれば、被告会社東京支店長であったAは、亡B社長らとの間で、被告会社の経営方針等をめぐって意見が対立し、次第に亡B社長らに対し批判的な姿勢を強め、昭和六三年二月五日、あえて被告会社と同業種を営む訴外会社を設立し、その実質的経営者となり、被告会社(東京支店)の仕入先、販売先を奪取する行為に出るに及び、その結果被告会社に対し、多大の利益を失わせたものである。訴外会社の設立・経営は、被告会社に秘密裡になされており、その目的は、亡B社長らに発覚しない間に、被告会社(東京支店)の取引先を奪うなどし、A支店長の経営方針に基づく会社運営を軌道に乗せることにあったと認めるのが相当である。 原告X1はAの腹心の部下として、また同X2は、同人の妻として、同人とともに積極的に訴外会社の設立・経営に参加し、被告会社に在職していながら訴外会社の事業活動に従事していたものであって、同原告らが被告会社に対してとった行動は極めて背信的というほかはない。したがって、右原告両名について、本件に顕れた有利な情状を考慮しても、長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があったというべきであり、前記退職金を受給することはできない。 しかしながら、原告X3及び同X4については、訴外会社の設立に関与してはいるが、被告会社在職中に訴外会社の事業活動を行った形跡は認められず、Aらが被告会社を懲戒解雇された昭和六三年六月一五日からしばらく経た後に被告会社を自己都合退職したものであって、右原告両名について、長年の功労を抹消してしまうほどの不信行為があったということはできず、前記退職金受給権を失わないというべきである。 |