全 情 報

ID番号 06537
事件名 雇用関係不存在確認請求事件/賃金反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人松蔭学園(森)事件
争点
事案概要  家庭科教諭として学園に採用されて以来組合結成の活動を続け、組合結成後は初代の委員長となった者に対して、生徒の成績評価の誤り等を理由としてなされた解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1995年6月22日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 2587 
平成5年 (ネ) 4332 
裁判結果 棄却
出典 労働判例685号66頁
審級関係 上告審/最高一小/平 8. 3.22/平成7年(オ)1931号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 1 控訴人の就業規則に定める「職務に適格性を欠くとき」とは、それが教職員の解職事由であることに照らすと、当該教職員の容易に矯正しがたい持続性を有する能力、素質、性格等に起因してその職務の遂行に障害があり、または障害が生ずる恐れの大きい場合をいうものと解するのが相当である。
 これを教師の生徒に対する成績評価の誤りについてみると、生徒の成績評価は、教師の職務のうちにあって極めて重要な部分であり、正確な成績評価をする能力は、教師という職務に携わる者にとって欠くことのできないものであり、また、評価を受ける生徒にとっても重大なことであって、成績評価の誤りは、その生徒の学園内における席次の問題だけでなく、進学や就職の推薦の問題にも重大な影響を及ぼすものであることは当然のことである。それ故、その成績評価の誤りが、容易に改善しがたいその教師の物の見方の偏りや独断に基づくものである場合、あるいは容易に矯正しがたい恒常的な注意力の欠如に基づく場合には、教師としての職務の適格性に欠けるものということができる。〔中略〕
 4 以上によれば、控訴人の指摘する成績評価の誤りは被控訴人の職務不適格性の徴憑ということはできず、その他、本件にあらわれた一切の事情を検討しても、被控訴人について就業規則四三条二号の「職務に適格性を欠くとき」に該当する事由ないしは右に準ずる事由(同条七号)は認められないから、本件解雇は無効というべきである。
 5 のみならず、前認定の本件解雇に至った経緯によれば、本件成績評価の問題が発生したのちの控訴人の対応は被控訴人を処分することのみを考え、被控訴人が求めていた教科会での話合いや釈明の機会も十分与えないまま本件解雇に至ったもので、今後の指導による被控訴人の成績評価の改善の可能性など適格性を真摯に検討した形跡は認められない。むしろ、右成績評価の問題を契機として従来から対立関係にあった組合の委員長である被控訴人を学園から排除することに主眼をおいて本件成績評価問題に対応してきたとみざるを得ない。しかも、本件解雇は、懲戒停職処分後行なわれた団体交渉の席上での、提出を求めた過去二年度分の教務手帳に今後間違いが発見された場合でも改めて懲戒処分には付さない旨の発言に反して行われたもので、普通解雇とはいえ重大な不利益処分であるから、労使間の信義に反するものといわなければならない。これらの事情によれば、仮に職務の適格性に問題があるとしても、本件解雇は解雇権の濫用として無効と認めるのが相当である。