全 情 報

ID番号 06539
事件名 年金受給権確認請求控訴事件
いわゆる事件名 名古屋学院事件
争点
事案概要  私立学校教職員共済組合規約による年金制度のほか、学院独自の年金制度を維持してきた学院が、年金基金の赤字の増大、学院の財政的逼迫からこれを廃止したことにつき、学院に勤務していた従業員らが改廃される以前の年金規程が効力を有し、年金を受給できる地位にあることの確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / その他
裁判年月日 1995年7月19日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ネ) 371 
平成3年 (ネ) 378 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集46巻4号1076頁/労働判例700号95頁/労経速報1615号6頁
審級関係 一審/05766/名古屋地/平 3. 5.31/昭和53年(ワ)3007号
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-その他〕
 一 一般に新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないところであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からして、当該就業規則の作成又は変更に合理性が認められる場合には、個々の労働者に等しく適用されるものであって、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を排除することはできないものと解される。
 そして、退職年金が、賃金や退職一時金と並んで、労働者にとって重要な権利であることは論を待つまでもなく明らかであり、しかも本件年金規程に基づく年金受給権の原資には、職員の拠出分が含まれているものである上、その支給条件は明確化されていて、功労報賞的性格よりも、むしろ権利性の色彩の強いものであるといえるから、これを剥奪する結果となる就業規則等の改廃については、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容されるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容であることが必要であるというべきである。
 二 そこで、右の見地から検討するに、当裁判所も、独自年金制度の廃止については、被控訴人の財政窮迫状態から見てその必要があることは顕著であり、それに加えてそれに対する代償措置が講じられていること等の内容を検討すると、独自年金制度の廃止によって控訴人らが被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性があると判断するものであって、その理由は、以下に付加・訂正するほか、原判決理由欄第二の二、三及び六1に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 6 控訴人らは、控訴人X1は、昭和五三年四月の経過によって、控訴人X2は、昭和五一年四月の経過によって、いずれも二〇年以上の勤続となり、拠出金の拠出義務を果たしているから、本件年金規程による年金受給資格を取得したものであり、被控訴人は、就業規則の変更によって、この既得の権利を侵害することはできない旨主張するが、右控訴人らが具体的に本件年金規程による年金受給権を取得したものではなく、受給資格を満たしたものに過ぎないのであるから、具体的な年金受給権の取得を前提とする右主張は採用できない。また、控訴人らは、被控訴人が、本件年金制度を昭和五二年三月末日に遡って廃止する旨定めたことは、控訴人らが既に取得した年金受給資格の取得を妨げることになるものであって、許されない旨主張するが、控訴人らが具体的な年金受給権を取得するに至っていないのであるから、権利を侵害するものとして許されないということはできない。
 三 そうすると、本件年金制度を廃止する就業規則の改廃には合理性があるものと認められる。