ID番号 | : | 06542 |
事件名 | : | 休業補償給付不支給決定処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 相模原労働基準監督署長(一人親方)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 木造建築工事における労働力の貸し借りの関係にあった一人親方の大工が、他の一人親方の請け負った建前作業中に二階の屋根から転落し、労働者災害補償保険法が適用される「労働者」であったとして休業補償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法29条 労働基準法9条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 労働者の概念 |
裁判年月日 | : | 1995年7月20日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (行ウ) 28 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集46巻4号1102頁/労働判例698号73頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-労働者の概念〕 労災保険法は、同法の適用を受ける労働者の定義規定を置いていないけれども、同法が、労基法第八章「災害補償」に定める各規定の使用者の労災補償義務を実現するため使用者全額負担の責任保険として制定された経緯を考慮すると、労災保険法上の「労働者」とは、労基法上の「労働者」と同一のものをいうと解するのが相当である。そして、労基法九条は、同法上の「労働者」について、職業の種類を問わず、同法八条所定の事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいうと規定しているが、その意味するところは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払いを受ける者をいうと解される。したがって、問題とされる者が労災保険法上の「労働者」に当たるかどうかは、使用者とされる者との間の業務遂行上の指揮監督関係の存否及び内容、時間的・場所的拘束性の有無及び程度、業務用機材の負担関係、報酬の支払条件及び方法、仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由の有無等諸般の事情を総合的に考慮して、その実態が使用従属関係の下における労務の提供とそれに対する対価の支払いと評価し得るか否かによって決すべきである。〔中略〕 Aは、もともと誰にも雇われず、誰も雇わない一人親方であり、Bの応援の依頼を受けて本件建前作業に従事中に本件事故が生じたものであるところ、その作業は一日で終わる一回的なもの(本件事故当時、A自身が、C会社から別の木工工事を請け負っていた。)であって、労働契約が予定する継続的な労務提供ではなく、また、BとAは同じくC会社から木工工事を請け負う一人親方同士で、いわば対等の立場にあり、確かに、AがBからの応援依頼に応じなければ自分の応援依頼に応じてもらえなくなることがあり得るものの、それは事実上のものにすぎず、都合が悪ければ応援の依頼を断ることができるのであって、仕事の依頼に対する諾否の自由があったと認められるし、本件建前作業について、Bから作業時間や作業内容等についての指示もなく、C会社とBとの関係は手間請であり、材料はC会社が提供しているが、作業用具はA自身が準備した大工道具を用いていることなどの事実が認められるのであって、これらの事情を考慮すると、本件建前作業に従事するに当たり、AがBの指揮監督下にあったということはできない。 更に、B及びAが属していた一二、三人の一人親方のグループにおいては、建前作業の応援は、作業時間を考慮して金銭を支払う形態の作業の手伝いとは明確に区別され、応援に対しては金銭の支払いではなく手間返しが原則とされているのみならず、その間隔もまちまちで一か月以上の間隔が開くことが多く、しかも、その手間返しも、作業が中途で終わったり半日しか作業しない場合であっても一回の応援と評価されることからみて一定時間の労務の提供に対する対価と評価することはできないのであって、これらの事情を併せると、建前における応援の手間返しは労働契約が予定する対価としての報酬とは認められない。 2 以上のとおりであって、BとAとの間に使用従属関係があって、Aがその下で労務の提供をし、それに対する対価として賃金の支払いを受けていたとは認められないから、Aが労災保険法上の労働者であるということはできない。よって、争点に関する原告の主張は採用することができない。 |