全 情 報

ID番号 06546
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 日証事件
争点
事案概要  金融業等を営む会社の和議申請に伴う全員解雇の処置につき、被解雇者が実質上の整理解雇であるとしてその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1995年7月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 3958 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労経速報1588号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 以上の事実によると、本件解雇は、形式的には全員解雇であり、整理解雇ではないが、実質的にこれをみると、和議は会社の事業の存続を前提とするものであり、当然債務者は、本件解雇に際し、解雇した従業員の中から会社再建のために必要な人材を再雇用することにしていたものであって、その実質は整理解雇にほかならないから、本件解雇の有効性を論ずるに当たっては、整理解雇の要件が考慮されるべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 疎明資料(書証略)及び前記認定事実によると、債務者は、倒産の危機に瀕しており、債務者が存続する術は、事業規模を大幅に縮小する(本社・東京支社・名古屋支社とし、従業員は五〇名程度とする)以外に残されておらず、早急に人員整理を行わなければならない状況にあったから、債務者において、債権者らを含む本件解雇を行うことはやむを得なかったと一応認められる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、平成二年ころから、新規採用の抑制、希望退職者の募集、退職指導(いわゆる肩たたき)により、雇用調整を図るべく努力してきたものであって、平成元年には一七あった店舗を和議申請の直前には六店舗に縮小し、三五七名いた従業員を一七四名まで削減しているし、平成四年から六年までの間、三次にわたって役員報酬をカットするなど人件費の節減にも努めてきたものであって、人員整理に消極的な組合の対応(書証略)をも考え併せると、漫然と本件解雇を行ったものではなく、解雇回避の努力をしてきたものと一応認められる。なお、本件解雇に際し、希望退職者が募られていない点は一応問題であるが、人員整理に手間取っていると、和議債権者の協力を得られないところから、早急な人員整理を迫られていたものであり、また、後述のとおり、事業存続のために選び得る人材は質、量ともに限られていたから、希望退職を募らなかったからといって、そのこと故に本件解雇が無効であるとはいい難い。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 債務者が和議条件を遂行するためには、本来の業務である手形割引業務に専念するとともに、延滞債権の回収に全力を投入する必要があったこと、そのための陣容は、最小の人数で最大の効果を挙げ得るものでなければならなったこと、したがって、再雇用されるべきものは十分な知識とともに、責任感が十分あり、同僚や上司の信望を有する者でなくてはならなかったことから、債務者は、「(1)延滞債権回収の任に当たり、回収に必要で管理業務に秀でた者、(2)商業手形割引、審査業務に精通した能力のある者、(3)コンピューター操作、プログラムの作成ができる者、(4)商業手形割引、商業手形収集、営業能力のある者、顧客をよく知っている者、(5)商業再手形割引してくれる顧客(いわゆる銀主)をもっている者、(6)社会保険業務手続、ワープロのできる者、事務能力のある者、(7)経理経験に秀で、事務処理能力のある者、金銭の取扱に慣れている者、(8)銀行、ノンバンク等に今まで当たり、先方の顔をよく知っている者、(9)統率力があり部下を指導でき、苦況に耐えられる者」であることを再雇用の基準においたものであるところ、一般的にみて、右の基準は十分な合理性を有しており、また、具体的適用に関しても、右基準に適った人選が行われたと一応認められる。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 使用者は、特段の事情がない限り、労働組合または労働者に対し、解雇の必要性とその時期・規模・方法につき説明を行い、協議すべき信義則上の義務を負うものと解すべきところ、債務者は、時間的余裕がなく、取り付け騒ぎを招くおそれがあったため説明協議をなし得なかったものであって、手続上不備はなかった旨主張するが、本件解雇に至る経過に照らしても、右主張は採り得ない。和議債権者らの協力を取り付けるため、人員整理に手間取ることは許されなかったにせよ、和議申請後、速やかに説明協議を尽くし、その上で解雇の意思表示をすれば、和議手続の進行に支障はなかったと思われる(本件解雇と和議申請を同時に行う必要性はなかった)。取り付け騒ぎを招くおそれが増えたとも思われない。
 なお、債務者は、本件解雇後、組合に対し必要な説明をしているし、本件審理の過程においても、債務者の選択がやむを得なかったものであることを十分明らかにしているが、前記のとおり、説明協議義務は使用者に課せられた重要な義務であり、結果的にみて本件解雇は避けられぬものであったにせよ、これらの事実をもって瑕疵が治癒されたとはいい難い。債務者は、解雇の遅れによる人件費の増大を危惧するが、それ故に全く抜き打ち的な解雇が是認されるわけではない。
 5 そうすると、本件解雇は、整理解雇の四要件のうち、説明協議義務を尽くすことなくなされたものというべきであるから、無効というほかない。