ID番号 | : | 06554 |
事件名 | : | 地位確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人大淀学園事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 大学教授を定年退職後、特任教授に任命されなかった者が、大学を相手として人事権の濫用を理由に特任教授たるの地位確認請求を行った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 大学助手・講師・教師 労働契約(民事) / 成立 退職 / 定年・再雇用 |
裁判年月日 | : | 1995年9月1日 |
裁判所名 | : | 宮崎地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 344 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | タイムズ897号109頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-大学助手・講師・教師〕 被告大学における特任教授規程(昭和六二年二月二〇日制定、最終改正の施行日は平成五年四月一日)では、被告大学の教授が定年により退職する場合、被告大学の事情を考慮して特に必要があると認めるときはこれを特任教授として任用することができる(二条一項)、任期は一年で、七五歳を超えない範囲内で任期を定めて更新できる(二条二項)、授業担当時間数は退職時の二分の一以上(三条)、基本給は退職時の二分の一(四条一項)とそれぞれ定められており、その待遇は正規の教授とは大きく異なっていること、その任用手続について同規程は、学長の意見を聴き、理事会の承認を得て理事長が任用する(五条一項)が、学長が意見を述べるにあたっては、学長は、当該学部教授会及び大学協議会の議を経なければならない(五条二項)旨定めていること、平成四年一一月二五日改正前の特任教授規程によると、特任教授の選考及び任用については、現行の規程と異なり単に大学協議会の意見を徴して理事会が決定するものとされていたにすぎないこと、被告は、平成四年一一月二五日、特任教授規程とは別に、「Y大学教育職員の定年延長に関する規程」を制定し、同規程は、平成五年四月一日から施行されていること、特任教授の任用状況は別紙記載のとおりであること、被告は原告に対し、退職金を支払い、原告もこれを受領していること、以上の事実を認めることができる。これらの諸事情を総合して勘案すると、特任教授制度は、定年延長制度とはその趣旨を異にし、退職時に当該教授に対して退職金を支払った上、被告大学において特に必要があると認める場合に当該教授と新たな雇用契約を締結するものであると解するのが相当である。 2 以上のような特任教授制度の趣旨、内容からするならば、原告が被告大学に平成元年に任用された際に、その雇用契約の内容として原告が退職した後は当然に特任教授に任用されるとの内容が含まれていたとは認め難く、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。 〔労働契約-成立〕 〔退職-定年・再雇用〕 原告は、被告大学においては、対象者が希望する限り特任教授に任用するとの慣行が成立していたと主張するので、この点について検討する。 1 争いのない事実並びに乙第一五号証、第二三号証、第二五号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、特任教授規程は、昭和六二年の被告大学創立時に制定されたが、別紙被告大学特任教授任用状況記載のとおり、特任教授規程による任用の対象となる退職者が生じたのは平成三年度末(平成四年三月三一日)からであって、平成四年度(平成四年四月一日)に初めて六名の者が特任教授に任用され、平成五年度には、右六名の特任教授のうち五名の者が再任用され、一名の者が新たに任用されたが、他方で原告を含む六名の者が定年により退職したこと、現在の特任教授規程は、平成四年一一月二五日に改正され平成五年四月一日から施行されたが、右改正により、前認定のとおり、任用手続、任用権者の変更が行われており、右改正後の特任教授規程に基づいて特任教授として任用するかどうかが問題となったのは、平成五年度における特任教授の任用又は再任用についてからであること、がそれぞれ認められる。 2 以上認定した事実からすると、そもそも特任教授規程による任用が実際に行われるようになってから本件までわずか二年余りしか経過していない上、任用手続及び任用権者が平成五年四月一日施行の特任教授規程によって変更されており、右規程に基づく運用実績は原告の問題が生じる以前には僅か一回あるのみである。よって、原告主張の慣行はこの点において既に認め難いものというべきである。原告は、労働慣行の存在を肯定するのにその継続期間はさほど重要な意味を有しないというが、労働契約に明示の定めのない労働者の権利義務に関する事項を、慣行の存在を認定することによって労使双方を拘束する契約内容であるとするためには、相当期間の事実の蓄積が不可欠であるというべきである。労使が契約締結時にその内容とする意思を有していたのであれば、その事項は慣行によってではなく、契約の内容そのものとして当事者を拘束するとすべきであり、慣行を持ち出す必要はない。そして、原告が被告大学経営学部教授に任用された平成元年四月に原告と被告間で右の合意がされたことを認め難いことは四において述べたとおりである。 よって、原告主張の慣行はこれを認め難く、この点に関する原告の主張は理由がない。 |