ID番号 | : | 06569 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ベニス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 被告会社を退職した者が再就職した会社に社員を引き抜いた行為が被告会社の退職金規定の退職金減額条項に該当するとして分割払いの形で支払い中の退職金を減額支給されたのに対して、それを不当として減額分の退職金の支払いを求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項第3号の2 労働基準法11条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 |
裁判年月日 | : | 1995年9月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 3134 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1580号22頁/労働判例687号69頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 被告における退職金に関する規定をみると、旧・新両就業規則を通じて本件退職金規定及び同別表により退職金金額を算出することとされており、その算出方法は、平成三年に本件減額条項が加えられた点を除いて、同一であって、勤続年数による基本退職金と職給付加金とを合計し、定年退職等の一定の事由による退職の場合にはその全額、自己都合による退職の場合には、右数値に勤続年数に応じて決められた率を乗じて算出した金額を実際支給額とするというものであり、また就業規則により懲戒解雇された者に対しては退職金を支給しないとされている。右の退職金の算定の仕方を見ると、支給条件、支給額が明確で、裁量の余地が殆どない。そうすると被告における退職金の基本的性格は、従業員が継続してした労働の対償であって、賃金の一種であると認めることができる。そして、右退職金規定及び同別表は就業規則と一体になるものとして会社と従業員との間の労働契約の内容となっており、従業員は、退職に当たり、右に基づく退職金の支払請求権を権利として取得することになる。〔中略〕 一般に退職金は、賃金としての性格の他に功労報償的性格をも併せ有すると解されているので、退職従業員に在職中の功労を評価できない事由が存する場合に、退職金の支給を制限することも許されないわけではなく、退職金の不発生事由や、一部不発生となる事由を就業規則に定めておけば(就業規則に定められたこれらの事由を以下「制限条項」という。)、それが労使間の労働契約の内容となるので、制限条項に該当する退職従業員については、退職金請求権がそもそも発生しなかったり、あるいは制限された範囲において、同請求権を取得することになると解される。しかしながら、退職金が賃金たる性質を有していることに鑑みれば、退職金請求権の発生をいかなる条件にかからせても許されるわけではなく、右条件の設定は、法及びその精神に反せず、社会通念の許容する範囲でのみ是認され、制限条項の適用は、労働者のそれまでの勤続の効を抹消(全額不支給の場合)ないし減殺(一部不支給の場合)してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限り許されるとするのが相当である。従業員の退職後の行為を制限条項の内容とする場合も同様であり、この場合、退職従業員は、退職に当たり、解除条件付きで退職金請求権を取得するものと解されるが、かような場合は、労使間の労働契約関係が解消されて本来自由であるべき退職従業員の行為の制限となることや、退職金金額が一度算定された後に適用されるような場合には、退職従業員の法的安定性を害する要因となることから、より厳格な条件の下でのみ適用を許すべきであり、さらに制限条項の規定の仕方が抽象的であって一義的に理解できないような場合には、このことから直ちに条項を無効とすべきではないが、右条項が果たす規範役割は希薄なものでしかないのであるから、退職従業員を保護する見地から、その適用はよりいっそう厳格な条件の下で行うべきであり、背信性が極めて強い場合に限りその適用を許すのが妥当である。 本件減額条項は、従業員の退職後の行為をも退職金減額理由になるとしている上、規定の仕方は著しく抽象的である。したがって、その適用の可否は、以上の見地から判断することとなる。 |