全 情 報

ID番号 06570
事件名 賃金等各請求事件
いわゆる事件名 大輝交通事件
争点
事案概要  タクシー会社において乗務員の一時金の歩合率がタクシー運賃の改定に伴い変更されたのに対して、右の新制度により賃金たる一時金が切り下げられたのは不当であるとして、少数派組合の組合員が旧制度での一時金の支払いを請求した事例。
参照法条 労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 1995年10月4日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 1673 
平成6年 (ワ) 21461 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例680号34頁/労経速報1579号18頁
審級関係
評釈論文 大内伸哉・ジュリスト1088号125~128頁1996年4月15日
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕
 本件就業規則の変更の内容をみてみると、前記第二・二(争いのない事実)2及び3のとおり、被告会社の基本的な賃金体系は、月例賃金・一時金ともに営収に応じて一定の歩合率を乗じて算出されるいわゆるオール歩合制であるということができるが、一時金について、いわゆる腰高が、旧賃金規定では四万四〇〇〇円であったのが、本件賃金規定では、五万円に引き上げられ、歩合率も、旧賃金規定では、四万四〇〇〇円以下が六〇パーセント、四万四〇〇〇円を超える部分が七八パーセントとされていたのが、本件賃金規定では、五万円未満が五九パーセント、五万円が六〇パーセント、五万円を超える部分が七七パーセントとされ、その割合がいずれも低下する内容となっており、他に代償措置もないところから、同一営収に対する賃金支給率の低下による賃金収入の減少が不可避である以上、従前の労働条件を不利益に変更するものであることが明らかである。
 このように、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないというべきである。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される(最高裁昭和六三年二月一六日第三小法廷判決・民集四二巻二号六〇頁)。〔中略〕
 被告会社は、原告ら加入労組が団体交渉において、再三にわたり右約定の趣旨に基づいて賃金改定を求めたのに対し、これを拒否したうえ、いわゆる旧労組との間に、十分な団体交渉を経たとも認められないのに、本件賃金規定を内容とする平成四年七月二〇日付け賃金協定を締結し、被告会社のタクシー運転手らに対し、本件賃金規定に同意しなければ、同年八月六日に一時金を支給しないとの態度をとっており、本件賃金規定は、運賃料金の改定により営収の増加によりタクシー運転手の賃金が従前よりも減ることはないとの前提が確保されることによって労使の利益が調整されることになるのであるから、そのような保障を欠いた点について原告ら加入労組の反対があったにもかかわらず、十分な協議を経ずに被告会社の経営上の要求を一方的に押し通そうとしたものであるとの感を否めない。
 (三) そうすると、本件就業規則の変更の内容の合理性は、到底これを肯認しがたいものといわなければならない。