全 情 報

ID番号 06571
事件名 地位保全・金員仮払等仮処分申立事件
いわゆる事件名 佐川ワールドエクスプレス事件
争点
事案概要  取締役を解任され嘱託となり、その後嘱託も解消された元従業員が雇用契約上の地位保全と賃金の仮払いの仮処分を申し立てた事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
裁判年月日 1995年10月6日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 1666 
裁判結果 却下
出典 労働判例684号21頁
審級関係
評釈論文 林豊・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕384~385頁1997年9月
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 取締役である者が、会社の組織上役職を兼ねていることは往々にあることであるが、その場合に当然従業員の地位を有していると一般的に断定することはできない。
 取締役の地位以外に従業員の地位を有しているか否かは、当該取締役の業務の内容、会社における指揮監督の有無、その程度、それに関連する報酬金の支払状況など総合的に判断せざるを得ない。
 債権者は株主総会で取締役に選任され、平成七年三月三一日に取締役に再任されることがなかったことから、取締役の地位を失った。
 債権者は、取締役に就任した際に、それまでの退職金の支給を受けているが、右退職金の支給は、それまでの債権者の労働の対価としてその清算を行ったものである。したがって、債権者は、従業員の地位を喪失することを前提に右退職金を受領したものである。
 債権者は、取締役に就任後は代表取締役の指示に従うも、その他債権者を指揮監督していた者は存在しない。むしろ、大阪支店の営業及び関西地区の営業に関しては、代表取締役から全面的に任され、本店移転の際には債務者を代表して土地の取得、建物の建築を行ったものであり、さらには、関西空港開港に際しては、平成六年二月一日から大阪支店長と併任して、取締役として本社企画部長関空対策担当に命ぜられ、同年六月六日に関空対策部長を命ぜられ、平成六年九月一日に取締役として大阪支店西日本営業部関西国際空港営業所所長を命じられ、大阪支店の営業範囲に関しては広範な範囲で裁量権を有していたものと推認できる。
 したがって、大阪支店の担当業務内(関西地区を含む。)では、債務者を代表する者として、行動してきたものである。
 そのことは、債権者の債務者における業績に対する自負からも伺える。
 債権者は、平成六年当時代表取締役に次ぐ支給金を受けており、債務者においては、債権者を含め取締役三名への支給金については会計上全額役員報酬とし、株主総会でその支払いについて決議していた。したがって、会計上の処理からすれば、支給方法にかかわらず、債権者が債務者から支給されていた金員は、労働の対価であるとは認め難い。
 債権者は、Aが代表取締役に就任する前には、自ら代表取締役の候補として目され、その手腕において債務者の社内並びにB会社からの支持を受けていた。
 平成六年一月ころから債権者はAとの間で確執が生じ、債権者が平成七年三月三一日以降取締役として選任されることがなかったものである。
 以上のことから、債権者は債務者の指揮監督下にあるものではなく、取締役の地位以外に従業員の地位をも有するものではない。〔中略〕
 債務者は、債権者に対する支給金から、健康保険料、厚生保険料及び雇用保険料等の社会保険料を控除して支給している。この保険料は労働者として支払うべき性格の社会保険料であるが、債務者は、債権者の便宜のために従前と同様の取り扱いを行っていたものである旨述べている。たしかに、この点債権者には取締役の地位以外に従業員の地位をも有していたことを推測させるものではあるが、本来労働者として支払うべき社会保険料については、当然債務者から支給される金員から労働の対価部分に限って支払うことになるが、そのような分類をした上で債権者に支給しているとは思えない。したがって、このことのみを捕らえて、債権者の地位を論難することはできない。