全 情 報

ID番号 06577
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 社会福祉法人大阪暁明館事件
争点
事案概要  社会福祉法人の経営する病院が定年(六〇歳)以降も再雇用していた看護婦、ソーシャルワーカー、事務職員、嘱託を経営再建を理由に解雇したのに対して、解雇された看護婦等が右解雇を違法として地位保全等の仮処分を申し立てた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1995年10月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 904 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例685号49頁/労経速報1588号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 人員整理の必要性があるというためには、単なる生産性向上や利潤追求のためというだけでは足りず、客観的に高度な経営上の必要性の存在を要するが、人員整理をしなければ企業の存続維持が危殆に瀕するという差し迫った状況までは必要でないものというべきである。
 右1(九)のような債務超過の状況や、同(四)のような利益の低迷にかんがみれば、債務者においては、少なくとも、人員を整理して人件費を抑制する客観的に高度に経営上の必要性があることは明らかというべきである。
 3 ところで、疎明資料及び審尋の結果によれば、債務者は、本件解雇後において、債務者病院の部門によっては、退職者よりも高給の職員を採用し、あるいは、補充採用により人員増が生じていることが疎明される。その意味で、本件は、単なる人員削減を目的とした典型的な整理解雇とは異なり、人件費の削減と、主として若年労働者の雇用による能率の向上や職場の活性化を併用した、経営改善のための解雇の事案と理解される。
 しかし、事業の活性化を図り、より収益性を上げるために、整理解雇と併せて、有能な人材を高給で採用し、あるいは、部門により人員を充実させる必要のあることもあり得るのであって、このような事実があるからといって、直ちに、人員整理の必要性がなかったとまでいうことはできない。
 しかも、(証拠略)によれば、債務者病院全体では、本件解雇前と解雇後では、「職員」については人数で四名、人件費で月二六二万円削減され、嘱託及びパートについても、人数で一・四名、人件費で月五三万円削減され、結果的に、退職勧奨による直接的効果と、嘱託・パートの削減努力とを加えた経済的効果は、月三一五万円(年間三七八〇万円)の人件費の減を達成していることが疎明される。
 したがって、右のような事実があったことをもって、人員整理の必要性に関する前記2の判断を覆すことはできないものというべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、前記二1(七)のとおり、株式会社Aとの業務委託契約を解約すると同時に病院職員を補充することにより、業務委託料と人件費増との差額(中間マージン相当部分)の削減を達成し、引き続き債権者と折衝することによって債務弁済期限の猶予の延長の同意をとりつけ、医療器械、材料を直接購入することによって、これにかける経費を削減する等の対策を講じたこと、大口債権者と折衝することにより、医業外経費として経営を圧迫していた金利について公定歩合以下までの減額を受けたこと、看護婦を増員することによって、平成六年一〇月、基準看護特一類の承認を得て診療単価の引き上げを実現し、人件費増加分と診療報酬割増分との差額の収入増(月平均約八〇〇万円)を達成したことが疎明される。
 2 (証拠略)によれば、平成七年三月期の医業収入は、計画を六〇〇〇万円上回る三八億八一二七万円の実績を上げているが、他方、医業利益の面では計画を七七〇〇万円下回る三八〇〇万円しか上げられなかったことが疎明されるところ、(証拠略)によれば、利益面において計画が達成できなかった要因として、債務者は、事業実施計画中、泌尿器科、耳鼻科、眼科の設備投資未実施による収入減、外来患者数が伸びなかったこと、薬品価格の引下げが業者との交渉で未達成であったことなどの人件費以外の要因を挙げていることが疎明される。しかし、これらの要因が、いちがいに債務者の懈怠によるということはできず、このことをもって、直ちに債務者が解雇回避努力を怠ったとまでいうことはできない。
 3 また、債権者においては、約三〇〇名の正職員のほか、約一〇〇名以上の非常勤職員(嘱託及びパート)がいるところ、非常勤職員に対して、希望退職の募集は行っていないことが明らかである。しかし、嘱託及びパートは、比較的人員整理が容易であって、前記二1(五)のような事情にもかんがみると、希望退職を「職員」のうち、就業規則上の定年である六〇歳以上の者に限ったことは、必ずしも非難されるものではない。
 4 以上によれば、債務者においては、解雇回避努力は尽くしたことが疎明されているものということができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 特定の部門において、本件解雇後に、従前よりも人員を増やしたり、退職者よりも高給で新たに従業員を雇用したからといって、直ちに当該被解雇者の人選に合理性を欠くとはいえないことは、前記二3で説示したところと同様である。そして、本件解雇対象者の人選は、債務者において、就業規則を遵守して、本来の人事運営の姿に戻すという方針のもとに、一律に、正職員で六〇歳を経過した者を選択したのであって、前記二1(五)で判示したような事情にも照らすと、この基準自体、かなりの公平感を持つものであって(ただし、債権者B及び同Cについては、結論において、人選の合理性を否定すべきことは後に判示するとおりである。)、給食課において、右のような事情があっても、債権者Dを解雇の対象としたことは、なお、合理的なものであると疎明される。
 2 債権者Bについて
 (証拠略)によれば、債権者Bの勤務するソーシャルワーカーの部門においては、病床数(三三一床)からして、最低二名のソーシャルワーカーの配置が義務づけられていること、従前、ソーシャルワーカーは債権者Bを含めて二名のみ配置されていたこと、同債権者に対する本件解雇後、債務者は、組合の指摘を受けて、平成七年四月二二日、新たにソーシャルワーカーを一名補充採用したことが疎明される。
 前記1で説示したように、「職員」のうち、六〇歳を経過した者を一律に退職勧奨ないし整理解雇の対象とする人選基準は、明快であり、かつ、かなりの公平感を持つものであるが、個別に検討した場合、債権者Cの場合と異なり、債権者Bのように、違法な状況を作りだす結果となるような解雇については、人選の合理性は肯定し難い。