ID番号 | : | 06585 |
事件名 | : | 不当利得等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 長谷実業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 被告会社の経営するクラブのホステスとして勤務していた者が、経営不振により右クラブが閉鎖され解雇されたことに関して、顧客未収売掛金支払いの保証債務の支払いをした後に、右契約が公序良俗に違反するとして不当利得返還請求をした事例。 |
参照法条 | : | 民法623条 民法90条 労働基準法20条1項 労働基準法17条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / クラブホステス 解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権 労働契約(民事) / 前借金相殺 |
裁判年月日 | : | 1995年11月7日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 1007 |
裁判結果 | : | 認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1585号3頁/労働判例689号61頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-クラブホステス〕 以上の認定事実によると、原告の接客した顧客の管理及び売掛金の管理等は原告においてなしていたというのであるから、原告は、被告から提供を受けたクラブ「A」店において遊興飲食業を営んでいたことは否定できない。しかし、原告の右営業も、前記争いのないところから明らかなとおり、被告の強い制約の下においてのみなし得るところであったのである。すなわち、前記争いのない事実によれば、売上高の最終的な帰属者は原告にはなく被告にあったのであり、原告は、賃金として一か月の純売上高五〇万円を基準として歩合給部分が定められていたものの、基礎日額が定められた日給月給制の下で支給を受けており、勤務時間制が採用されていて、これについてはタイムカードによって管理されたうえ、勤務時間を厳守するために賃金の減額措置がなされており、原告らホステスの勤務については被告において指揮監督をしていたというのである。 このようにみてくると、本件サービス業務委託契約は、原告がクラブ「A」店において遊興飲食業を営むことは形式的側面においてであって、その実質は、原告が同店においてホステスとして接客サービスという労務を提供し、被告が原告に対し歩合給を含む賃金を支払うという契約、すなわち、労働契約ということができる。 〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕 右認定事実によると、被告が原告に対し、平成五年七月九日、クラブ「A」店を閉鎖する旨を述べたことは解雇の意思表示の趣旨であったと認めることができる。そうすると、被告は原告に対し、労働基準法二〇条一項本文に従い三〇日分の平均賃金の支払義務がある 〔労働契約-前借金相殺〕 本件未収売掛金連帯保証契約の公序良俗違反性の有無については次の五つの観点から総合的に判断すべきである。すなわち、〔1〕原告の実質的関与の機会のないうちに被告と顧客との意思と都合とによって保証債務額が際限なく高額となり原告に苛酷な負担を強いることとなるか否か。〔2〕顧客に対する売掛代金の回収は本来被告においてなすべきであるにもかかわらず、被告が優越的立場を利用してその負担と危険とを回避して原告の負担において一方的に代金回収の利益を得る結果となるか否か。〔3〕保証債務を負担することが原告の退職の自由を著しく制約することになるか否か。〔4〕顧客の信用性に関する判断を原告に負担させることにそもそも無理があるか否か。〔5〕売上げに関するノルマがあって原告が売掛けを断ることが事実上困難であるか否かという観点である。〔中略〕 前記認定事実によると、原告はなお自由な意思により本件借り入れをなし、前店の経営者に右保証債務の支払いをなしたものということができ、被告が右特別の事情又は原告の無思慮・困窮に付け込んだような不当な事情を認めるに足りる証拠もない。 したがって、本件消費貸借契約が公序良俗に違反した無効の契約である旨の原告の主張は理由がない。 さらに、原告は、本件消費貸借契約は前借金との相殺を禁止した労働基準法一七条に違反した無効な契約である旨を主張するが、本件消費貸借契約は、前述したとおり前店の経営者に対して負っていた保証債務の支払に充てるための被告からの借り入れであったのであるから、同法条に違反したことにはならない。 |