全 情 報

ID番号 06593
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 聖パウロ学園事件
争点
事案概要  試用期間を一年とし、期間の定めなく雇用された私立学校の教諭に対する、試用終了時における留保解約権の行使につき、授業内容などにとくに問題はなかったとして、右解約を無効とした事例。
 試用契約につき、試用期間満了時に再雇用に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情のない限り、解約権留保付契約と解するのが相当とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法21条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1995年11月20日
裁判所名 大津地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 394 
裁判結果 認容,一部却下
出典 タイムズ901号188頁/労働判例688号37頁
審級関係 控訴審/06852/大阪高/平 8. 9.18/平成8年(ネ)81号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 試用期間が設定された雇用契約の意義は、試用期間中の労働者が試用期間のついていない労働者と同じ職場で同じ業務に従事し、使用者の取扱にも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、解約(ママ)留保権付雇用契約であると解するのが相当であり、使用者が右留保された解約権を行使できるのは、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認できる場合に限定されると解すべきである(最高裁平成元年(オ)第八五四号同二年六月五日第三小法廷判決・民集四四巻四号六六八頁)。
 本件において、原告は、前記二1認定のとおり、専任講師として採用されてから、他の教職員と変わらず授業や校務を担当し、その身分・処遇について教諭とは何ら異なる扱いを受けていなかったのであり、前記二2認定のとおり、原告と被告との間で試用期間満了をもって当然に雇用契約が終了する旨の合意があった等の事情が認められないことからすれば、試用期間が設けられた意義は解約(ママ)留保権付雇用契約と解するのが相当である。
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 被告代表者は、本人尋問において、二学期になってから、同僚の教員や保護者等から原告の授業内容について苦情が出るようになり、管理職会議においてA校長やB副校長らから宗教科を逸脱した授業内容であるとの報告を受けたと供述し、(人証略)は、同証人が保護者を対象としてキリスト教研究会を行っていたところ、平成四年五月末ころから、原告の授業内容や採点方法等について疑問視する声が出るようになったと証言し、成立に争いがない(証拠略)によれば、中学一年生から三年生の平成四年度の学年末考査の問題は、一年間の宗教の授業の感想の外、アパルトヘイトやアウシュビッツ、キング牧師に関する出題がなされていたことが認められる。
 他方、原告は、本人尋問において、被告が問題視する社会問題(アパルトヘイトやアウシュビッツ等)を授業で取り上げたのは三学期になってからであり、それまではキリスト教の教義等を中心に授業を行い、中絶の問題についてもキリスト教の教えを念頭において教えていたと相対立する供述をしている。そこで、前掲(証拠・人証略)によれば、以下の事実が認められる。
 原告は、宗教科の授業を担当するにあたり、前年度までの担当教諭であったCが残していた授業報告を参考にして授業計画を立て、作成した授業計画書を被告に提出した。
 原告が行った平成四年度の一学期の期末考査では、中学一年生から高校二年生まで、いずれも聖書に関する問題を中心に出題し、学年末考査においても高校一年生及び二年生については、聖書やキリスト教の教義に関する出題をしていた。
 原告は、平成五年三月二二日に、被告とD教職員組合との団体交渉に参加し、その席上E副理事長から、原告が宗教の時間に要理を教えていないとの苦情があったとの説明を受けたが、それまで授業内容について不適切であるとの指摘を受けたことは一度もなく、何らかの指導を受けたこともなかった。
 右認定事実に加えて、被告代表者は、原告の授業内容の苦情についての事実確認はE副理事長かA副校長が行ったと思うと供述するものの、成立に争いがない(証拠・人証略)によれば、A副校長(当時校長はF理事長が兼任していたため、実際の校長の職務を担当していた。)は原告とは余り接触がなく、原告との雇用契約を解雇(ママ)するに至った詳しい事情を知らず、E副理事長も原告の授業の内容について立ち入った調査を行っていないことが認められ、さらに(人証略)は、平成四年度の夏休み前に原告の授業に関する保護者からの苦情の内容をまとめて理事長宛に提出したと証言するものの、苦情の内容について曖昧な部分がある上、被告代表者は本人尋問においてE副理事長からの報告について全く触れていないことからすれば、前記被告代表者の右供述や証言は信用することができない。
 以上によれば、被告が原告の行った平成四年度の授業内容を具体的に把握していたか否かは甚だ疑問があるといわざるを得ず、原告が、被告の教育理念や宗教科教育の基本から逸脱して、独自の判断で授業を行っていたとの主張は採用できない。