全 情 報

ID番号 06601
事件名 地位保全金員支払仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 医療法人南労会事件
争点
事案概要  婦長への暴行を理由とする懲戒解雇につき、手のひらを平手ではたいたもので懲戒解雇理由に該当せず、不当労働行為にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1995年12月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 1910 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例689号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 2 本件は、債権者がA婦長に対し、診療中の診察室のアコーディオンカーテンを開けて、その右手の手のひらを、平手ではたいたというものであり、診療中の診察室における業務に対する影響や、平手ではたくという行為に出た債権者の軽率さは、軽視されるべきものではないと一応いえる。
 しかしながら、債権者は、A婦長がとった挑発的態度に対して、余りにも度がすぎているものと考え、思わずたしなめる趣旨で平手ではたくという行動をとったものであり、軽率であることは否めないものの、その行動の動機、態様が著しく不穏当とまではいえない。
 結果的に、債権者の行動をきっかけとして、大きな騒ぎが発生しているが、その一端は、A婦長のやや度をすぎた反応、これを前提としたB理事長の行動に起因する部分もあることは否定しがたい。
 さらに、幸い、第一診察室における診療は、冒頭の問診の段階であり、特段の業務の支障が発生するには至らなかったことが認められる。
 3 A婦長、B理事長の本件当日の反応、その後の、債務者側の債権者に対する対応、とられた措置の内容からすると、債権者のA婦長に対する行為は、婦長導入問題で著しく紛糾していたB診療所における労働争議を、債務者側に有利に進めるための口実に利用されたものとみる余地が多分にあるものといわなくてはならない。
 債権者のA婦長に対する本件行為は、それ自体懲戒解雇事由にあたる程のものと認めることはできない。
 本件行為以前の債権者に対する懲戒処分は、いずれも懲戒事由が存在しないにもかかわらず、なされたものである。
 以上によると、本件懲戒解雇は、懲戒事由が存在しないにもかかわらずになされたものであるから、無効である。
 4 また、本件懲戒解雇は、債務者が婦長導入問題で対立関係にあった組合に対し、婦長導入に対する組合の抵抗を排除する意図のもとにおこなわれたものというべきであり、不当労働行為に該当し、無効である。