全 情 報

ID番号 06692
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 ロイヤル・インシュアランス・パブリック・リミテッド・カンパニー事件
争点
事案概要  部長職にあった者に対するいわゆるリストラ対策として、非管理職への降格、自宅待機、退職勧奨を経て解雇したことにつき、就業規則所定の「組合の了承」をとっておらず無効とした事例。
 部長職にあった者に対するいわゆるリストラ対策としての整理解雇の主張につき、就業規則所定の「組合の了承」をとっておらず、手続の点で無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1996年7月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成8年 (ヨ) 21079 
裁判結果 一部認容,一部却下(確定)
出典 時報1584号142頁/労経速報1610号15頁/労働判例712号85頁
審級関係
評釈論文 島田陽一・判例評論461〔判例時報1600〕210~213頁1997年7月1日/籾山錚吾・ジュリスト1131号130~133頁1998年4月1日
判決理由 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 右の事情を前提に考えると、同規程二条(5)において、解雇の手続要件として従業員組合の了承が規定されているのは、債務者の従業員が、経営者側の一方的な事情によって解雇されることを一定限度で制限しようとする趣旨であると解すべきである。
 そして、本件債権者らが平成七年一一月の新体制への移行に伴い部長職を解かれたことは当事者間に争いがないのであるから、その結果、債権者らがいずれも従前の管理職としての地位を喪失して一般の従業員と全く同等の法的地位を有するに至ったことが明らかである。
 そうである以上、債権者らに対する本件解雇についても、同規程二条(5)が適用されることになり、したがって、解雇のための手続要件である債務者の従業員の組合の「了承」という事実の存在が疎明されない限り、本件解雇は、無効であるが、本件全疎明資料を精査してもなお、本件解雇に際して、右了承があったことの疎明があると言うことはできない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 整理解雇の法的本質は、普通解雇であり、ただ、それが会社の倒産とか特定の非採算部門の整理その他の特殊な事情ないし状況の下になされる解雇であることから、その解雇の正当性の判断あるいは解雇権の濫用の判断等において、その判断要素として、通常の解雇の判断に一般に必要とされる諸事情に付加して、整理解雇に特有の諸事情を綜合考慮しなければならなくなることがあり得るのに過ぎず、まして、法律上、整理解雇が独立した解雇事由となることはないし、また、整理解雇に固有の法律要件が確定的なものとして存在するわけでもない(いわゆる整理解雇における整理解雇の必要性とか解雇避止義務の履行等の諸事情は、そのような意味での付加的な事情の一つであると解するべきであり、整理解雇の主張がある場合において、それらの事情の全てを常に判断対象とすべき論理的な必然性は全くなく、事案によって、判断に必要な要素が異なるのは当然である。)。
 したがって、就業規則による解雇制限がある場合には、整理解雇においてもまた、一般的に承認されている解釈に従い、原則として、その就業規則による解雇制限が機能するものと解釈すべきである。
 (2) ところで、本件では、債務者の就業規則「退職および解雇規程」二条(5)に経営上の理由による解雇の場合が解雇事由として列挙されており、この経営上の理由による解雇の概念にいわゆる整理解雇の場合が完全に包含されることは、同規程の文言解釈のみでも明かである。そして、前記のとおりの同規程の変遷等の事情に鑑みると、債務者が整理解雇として債権者らを解雇しようとする場合には、同規程に定める手続要件を履践することが不可能であるか又は同規程に定める手続要件の履践を求めることが却って債権者らにとって酷な結果を招来してしまうというような極めて特殊な事情が存在するなどの特段の事情がない限り、同規程に定める手続要件を充足する必要があることは、整理解雇以外の普通解雇として債権者らを解雇しようとする場合と全く異なることがないと解すべきである。
 (3) しかるに、本件解雇については、同規程に定める手続要件としての従業員組合の了承があったことの疎明がないのであるから、結局、債務者の主位的主張につき判断したところと同じ理由により、この点に関する債務者の主張もまた失当たるを免れない。
 3 右判断のとおりであり、債務者は、他の解雇事由を何ら主張・疎明しないから、結局、本件解雇は、無効である。