ID番号 | : | 06707 |
事件名 | : | 退職金返還請求上告事件 |
いわゆる事件名 | : | 三晃社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退職後、同業他社に就職した広告会社の社員につき、退職金支給額を自己都合の場合の半額にすることは有効であり、労働基準法三条、一六条、二四条に違反するものではないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法24条 労働基準法89条1項3の2号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限 |
裁判年月日 | : | 1977年8月9日 |
裁判所名 | : | 最高二小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (オ) 1289 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報958号25頁 |
審級関係 | : | 控訴審/01122/名古屋高/昭51. 9.14/昭和50年(ネ)338号 |
評釈論文 | : | 安枝英のぶ・労働判例371号14頁/山本吉人・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕68頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 本件労働協約は、国鉄永退社員に対して適用される部分とそれ以外の従業員に適用される部分とに区分されているものの、被告会社の全従業員に適用される趣旨のものであることが明らかであるから、被告会社に常時使用されているすべての労働者を対象としているというべきであり、そうすると、本件労働協約に定める定年制は、原告と同一の事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者に適用されるに至ったと解すべきである。〔中略〕 労働組合法一七条の規定は、その文言上、同条の定める労働協約の一般的拘束力を右主張のように制限的なものとはしていないが、同規定の立法趣旨について考えてみると、同規定が右一般的拘束力を定めたのは、労働協約の適用を受けない未組織労働者が協約基準より不利な労働条件で雇用されている場合は、労働組合の組合員と未組織労働者との間に不公正な競争を生じ、協約基準引下げの方向に作用することがあり得る反面、逆に未組織労働者が協約基準より有利な労働条件で雇用されている場合、有利な労働条件を求めて組合を脱退する者が生じ、団結力の維持、強化を阻害することにもなるから、これらの事態を防止して組織の動揺を防ぎ、団結を維持、強化するとともに、同一職場での統一的な労働条件の設定を趣旨としていると解される。 してみると、同条の定める一般的拘束力の範囲を原告主張のように制限的に解釈すべき理由はなく、未組織労働者が協約基準より有利な労働条件で労働契約を締結している場合(労働条件の不利益変更の場合)においても、未組織労働者に対し新しい労働協約を適用してその労働条件を引き下げることが、右規定の趣旨に照らして著しく不当と解される特段の事情がある場合を除き、新しい労働協約の効力が未組織労働者にも及び、その労働条件は協約基準にまで引き下げられるものと解するのが相当である。〔中略〕 原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって、被上告会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法三条、一六条、二四条及び民法九〇条等の規定にはなんら違反するものではない。以上と同旨の原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は、すべて採用することができない。 |