ID番号 | : | 06715 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 東日本旅客鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 国労のマーク入りのベルトを着用して就労した組合員に対し、会社が仕事として就業規則の書き写し等を命じたことは人格権を侵害しているとして、会社に損害賠償の支払を命じた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働組合法7条 民法709条 民法710条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令 |
裁判年月日 | : | 1992年12月15日 |
裁判所名 | : | 仙台高秋田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (ネ) 142 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例690号13頁 |
審級関係 | : | 上告審/06770/最高二小/平 8. 2.23/平成5年(オ)502号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕 以上によれば、なるほど、本件教育訓練の契機となった被控訴人の本件ベルト着用につき控訴人Xがこれを就業規則に違反すると考えたことに過失があるとはいえず、被控訴人が素直に取り外しに応じなかったことから、控訴人Xが、純粋に本来の教育訓練の目的である職員の知識、技能等の向上という見地から、被控訴人に対する教育訓練が必要と判断したのだとすれば、そのこと自体も直ちに非難できないし、本件教育訓練においても、被控訴人に一定時間内で全文を書き写すよう命じたわけではなく、控訴人Xが終始被控訴人の面前でその一挙手一投足まで監視したり、被控訴人を物理的監禁状態に置いたものでもない。 しかしながら、客観的には、被控訴人の本件ベルト着用は、就業規則に違反しないか、一部の規定に抵触するとしてもその違反の程度は極めて軽微であること、にもかかわらず、本件教育訓練の主たる内容である就業規則の全文書き写し(本件では、偶々同控訴人も予期せぬ事情によりこれが途中で打ち切られたが)は、一般にそれを命ぜられた者に肉体的、精神的苦痛を与えるものであり、しかも、その合理的教育的意義は認め難いこと、本件の契機からすれば、就業規則の全文を書き写させる必要性を見い出し難いこと、控訴人Xの態度には、被控訴人に対して心理的圧迫感、拘束感を与えるものがあり、合理的理由なくして被控訴人の人格を徒らに傷つけ、また、その健康状態に対する配慮も怠ったこと、勤務時間中、事務室内で長時間に亘り行われるなどの前記諸事情に鑑みると、控訴人Xの命じた本件教育訓練は、被控訴人に就業規則を学習させるというより、むしろ、見せしめを兼ねた懲罰的目的からなされたものと推認せざるを得ず、その目的においても具体的態様においても不当なものであって、被控訴人に故なく肉体的、精神的苦痛を与えてその人格権を侵害するものであるから、教育訓練についての同控訴人の裁量を逸脱、濫用した違法なものというべきであり、これが同控訴人の被控訴人に対する不法行為を構成することは明らかであるし、また、これが控訴人Xの職務に関してなされたことも明白である。 以上のとおりであるから、控訴人Xは民法七〇九条により、また、控訴人会社は同法七一五条により、被控訴人が控訴人Xの右不法行為によって被った損害につき、これを賠償する義務がある。 |