ID番号 | : | 06721 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 近畿エキスプレス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働者が被った自動車事故に関連して労働者災害補償保険法による将来支給分の遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別年金、使用者が支払った労災上積補償金が損害から控除されるべきかどうかが争われた事例。 |
参照法条 | : | 自動車損害賠償保障法3条 労働者災害補償保険法12条の4 労働者災害補償保険法23条1項 労働者災害補償保険特別支給金支給規則5条 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 労災上積み補償・特別補償協定 |
裁判年月日 | : | 1994年11月29日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (ワ) 1445 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 交通民集27巻6号1768頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 (二) 労働者災害補償保険法による遺族補償年金は、同法の定める保険給付の一つであり(同法七条一項一号、一二条の八第一項四号、一六条)、政府は、給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(同法一二条の四第一項)。 したがつて、同法による遺族補償年金は、死亡した労働者の損害の填補をも目的としているものと解され、原告Xの受ける給付を同人の損害賠償の額から控除する必要がある。 ところで、被告らは、原告Xが将来にわたつて取得する遺族補償年金の額も同人の損害賠償の額から控除すべきであると主張する。しかし、このような場合、原告Xが遺族補償給付請求権を取得したということだけでは、これによつて同人に生じた損害が現実に填補されたものということはできず、損害賠償の額から控除することが許されるのは、当該遺族補償給付請求権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られると解される(最高裁昭和六三年(オ)第一七四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻四号三〇三九頁参照)。 そして、同法一六条の四によると、遺族補償年金の受給者に婚姻あるいは死亡等の事由が発生した場合、遺族補償年金の受給権の喪失が予定されているのであるから、既に支給を受けることが確定した遺族補償年金については、現実に履行された場合と同視し得る程度にその存続が確実であるということができるけれども、支給を受けることがいまだ確定していない遺族補償年金については、右の程度にその存続が確実であるということはできない。〔中略〕 (三) 労働者災害補償保険法による遺族特別支給金及び遺族特別年金は、同法二三条一項の労働福祉事業として、労働者災害補償保険特別支給金支給規則五条、九条に基づいて原告らに支払われたものである。 そして、右各金員は、損害賠償制度との間に調整規定も設けられておらず、損害の填補を目的として給付されたものではなく、もつぱら労働者の遺族の援護及び福祉の増進を目的として給付されたものと解されるから、原告Xに生じた損害から右各金員を控除すべき理由はない。 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-労災上積み補償〕 (五) A協会とB労働組合協議会との間で、いわゆる労使間の協定の一つとして、業務上災害死亡及び傷害補償金に関する協定書(乙第二〇号証)が締結され、右協定書に基づき、A協会に属する訴外会社が、原告Xに対し、労災上積補償金二二〇〇万円を支払つたことについては当事者間に争いがない。 そして、乙第二〇号証によると、右協定書は、発生の原因が第三者加害行為による場合、第三者より補償等を受けた場合は、業務上災害補償金を支給しないとする規定はあるものの(第五条)、先に業務上災害補償金が支給された場合に、使用者が加害者に対して損害賠償請求権を代位して取得する旨の規定はなく、また、発生の原因が当該死亡者又は当該障害者の故意又は重大な過失による場合にも、なお、業務上災害補償金が支払われることもありうる(第三条)と定めていることが認められる。 これに、本件事故に対して、A協会及び訴外会社は、右協定書に定める災害補償金を法律上当然に支払う義務があるわけではなく、あくまでも、労使間の協定の一つとして右金員が支払われていることを併せ考えると、右協定書により原告Xに支払われた金員は、損害の填補を目的としているものではなく、もつぱら広い意味での労務対策の一環として支払われたものであると解されるから、原告Xに生じた損害から右金員を控除すべきではない。 |