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ID番号 06733
事件名 地方労働委員会命令取消請求事件
いわゆる事件名 西福岡自動車学校事件
争点
事案概要  腕章着用闘争を理由とする第一次処分(遣責処分)は不当労働行為意思を決定的動機としてなされたものではないとして、労働委員会の救済命令を取り消し、和解後の右闘争を理由とする第二次処分は不当労働行為意思を決定的動機としてなされるものとして労働委員会の救済命令を維持した事例。
 始末書不提出を理由に懲戒処分ができるとした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1995年9月20日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (行ウ) 17 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労働判例695号133頁/労経速報1606号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-始末書不提出〕
 三 始末書等の不提出行為の懲戒事由該当性について
 被告は、始末書等の不提出行為をとらえて再び懲戒処分を課すことは、労働者の内心の自由に反して反省・改悛することを強制するものであり、また、既になされた懲戒処分を実質的に累加するものである旨主張する。
 確かに、始末書等の提出の命令をもって、対象である労働者の内心の自由に反して反省、改悛を強制することができないと解すべきことは被告の主張するとおりであり、また、一時不再理の法理は私的制裁規範である就業規則の懲戒事項にも該当し、同一の懲戒事由に対して二回以上にわたって懲戒処分を課すことは許されないと解すべきことも被告主張のとおりである。
 しかし、労働者は労働契約上企業秩序維持に協力する一般的義務を負うものであるから、始末書等の提出を強制する行為が労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は非違行為をなした労働者に対し、謝罪の意思を表明する内容を含む始末書等の提出を命じることができ、労働者が正当な理由なくこれに従わない場合には、これを理由として懲戒処分をすることもできると解するのが相当である。
 そして、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、本件において原告が分会員らに対して要求した始末書等の内容は、個人の意思の自由を不当に制限するものではないと認めることができるから、始末書等の不提出行為に対して懲戒処分を行うことも許されると解するのが相当であり、この点に関する被告の主張は採用することができない。
 そうすると、前記事実に照らし、第一次懲戒処分により始末書等の提出を命ぜられたにもかかわらず、これを提出しなかった分会員らの行為は、原告の就業規則六一条七号の懲戒事由に該当するものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 3 以上によれば、第一次懲戒処分を行った平成二年九月二五日当時、原告が分会に対し嫌悪感を抱いていたこと及び分会員に比して社友会会員を優遇していたこと等が認められるが、1の判断と併せ考えれば、これらの事情のみでは、原告が不当労働行為意思を決定的動機として第一次懲戒処分を行ったものと認定することはできないというべきである。
 よって、第一次懲戒処分が不当労働行為に該当するとの被告及び補助参加人の主張は失当であり、本件命令中これを認めた部分は違法であって、取消しを免れない。
 六 次に、第二次懲戒処分の不当労働行為該当性について判断する。
 1 原告は、第二次懲戒処分の理由として、平成二年九月一一日から翌平成三年四月四日までの本件腕章着用闘争及び始末書等の不提出行為を掲げているところ、右各行為は前記二及び三に判示したとおり、それ自体懲戒事由に該当する性質ものである。
 しかし、本件腕章着用闘争に対する懲戒処分の必要性について検討するに、既に同様の行為に対する第一次懲戒処分が先行しており、また、本件腕章着用闘争が第一次懲戒処分後も長期間継続されたのは、補助参加人が検定業務停止処分や受審拒否処分などの撤回を要求していた七号事件が被告に係属し、審理されていたことにも一つの原因があり、しかも右事件が解決に向かって進行する中で本件腕章着用闘争が自発的に中止され、その結果これらの労使紛争が解決され、本件和解が成立するに至ったと解される事情に鑑みれば、懲戒処分を行うべき必要性は第一次懲戒処分の場合に比較して格段に低かったものというべきである。
 また、始末書等の不提出行為に対する懲戒処分の必要性について検討するに、始末書等の不提出行為が継続されたのは、本件腕章着用闘争継続の原因でもある検定業務停止処分や受審拒否処分などの問題が七号事件として被告に係属し、審理されていたことにも一つの原因があるものと解され、その後和解手続が進行するに伴って始末書等の不提出行為に対する警告書も交付されなくなり、最終的には本件和解が成立しているのであるから、始末書等の不提出行為が原告の企業秩序に与えた影響は僅少と見られ、これに対し殊更懲戒処分を行う必要性はなかったものといわざるを得ない。
 さらに、第二次懲戒処分において選択された譴責処分は賃金査定に影響を及ぼすものであるから、第二次懲戒処分の正当性を認めることは困難である。
 2 そこで、不当労働行為該当性を基礎づけるものと補助参加人が主張する点について検討するに、前記事実によれば、原告は第二次懲戒処分を行った平成三年六月一〇日当時においても、分会に対し嫌悪感を抱いており、分会員に比して社友会会員を優遇する態度を有していたものというべきである。また、分会が検定業務停止処分や受審拒否処分に抗議して腕章着用闘争を継続し、これに端を発する第一次懲戒処分に派生して始末書等の不提出行為が争われてきた経緯に鑑みれば、本件和解の前文における「本件の発生により生起した一切のいきがかり」には本件腕章着用闘争及び始末書等の不提出行為も含まれると解するのが相当であり、かつ、原告がそれまで繰り返していた警告書の交付を止めて譲歩する姿勢を示し、本件和解を成立させたうえ、懇親会まで開いて将来の労使協調路線について懇談をしたにもかかわらず、その後突如として第二次懲戒処分を行ったことは本件和解の趣旨に反するものというべきである。
 3 以上の事実を総合考慮すれば、第二次懲戒処分は、第一次懲戒処分と異なり、不当労働行為意思を決定的動機としてなされた、労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当するものと認定するのが相当である。