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ID番号 06734
事件名 土地賃料改定等請求控訴事件
いわゆる事件名 三洋紙工事件
争点
事案概要  労働者が入社後、自宅購入資金として給料天引きにより積み立てていた社内預金の払い戻しを請求したのに対し、使用者が消滅時効を援用して払い戻し効力を争った事例。
参照法条 民法1条
民法145条
民法166条
労働基準法18条
体系項目 労働契約(民事) / 強制貯金・社内預金
裁判年月日 1995年9月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ネ) 2136 
裁判結果 変更(上告)
出典 タイムズ907号184頁
審級関係 一審/06725/東京地/平 7. 4.21/平成5年(ワ)4008号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-強制貯金・社内預金〕
 前記認定のように、控訴人は、控訴人の妻の父Aが経営する同族会社である被控訴人に勤務し、Aの発案で自宅購入資金とするために、別紙記載のとおり、給料天引きにより積み立て、かつ、その積立金については、被控訴人がこれを保管管理し、被控訴人の借入金の担保等に使用することもあったところ、控訴人は、昭和五四年六月、自宅購入資金の一部とするため、右積立金の一部五三〇万円の返還を受けたが、証拠(甲四、一三、控訴人本人、被控訴人代表者本人)によれば、その後平成四年に退職するまでの間は、控訴人において被控訴人に対し右積立金残金の返還を請求したことがなく、また、被控訴人も控訴人に対しその返還等を申し出たことはなかったものの、控訴人は、本訴提起前において、すでに右退職の際に被控訴人に対してその返還を求め、また、退職した年の平成四年中に中野簡易裁判所にその返還を求める調停の申立てをしたことが認められる。
 ところで、同族会社である被控訴人の経営者の親族たる従業員として、控訴人は、右積立金を担保に供するなどして被控訴人の経営に協力する立場にあったのであるから、少なくとも被控訴人の従業員として継続的雇傭関係にある間は、控訴人に特に右積立金残金の使用の必要性が生ずるなどの特段の事情のない限り、その返還を請求することは事実上困難であり、その間にこのような返還請求をしなかったとしても、控訴人が権利の上に眠っていた者であるということはできないというべきである。他方、被控訴人としても、本件積立てが給料天引きの方法によってなされていることからも明らかなように雇傭関係にあることを前提としてされ、しかも、被控訴人においてこれを担保として利用することもあったというのであって、単なる金銭の貸借とは異なるものであるから、積立人たる従業員からの返還請求がなくても、残金の管理の状況を知らせるなど雇傭主として従業員の信頼に応え、従業員のために適切に管理すべき義務を負っていたというべきである。したがって、前認定のように控訴人が退職に際してあるいは退職後直ちにその返還を求めたにもかかわらず、いまだ雇傭関係が継続中の時点ですでに消滅時効に必要な期間が経過しているとして、その返還請求権の消滅時効を援用することは、控訴人において特にその権利行使を怠るなど特段の事情のない限り、従業員たる控訴人の雇傭主たる被控訴人に対する信頼を著しく裏切るものであり、従業員と雇傭主間における信義則に反し、権利濫用になるものというべきである。そして、本件においては、右特段の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。