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ID番号 06747
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 東京大林計器事件
争点
事案概要  労働者を被保険者、会社を保険金受取人とする死亡保険金三〇〇〇万円の生命保険契約につき、労働者の死亡により、退職金・弔慰金約二〇二万円のほか、五〇〇万円を遺族に支払うべきとした事例。
参照法条 労働基準法2章
商法674条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 1995年11月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 2506 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ911号121頁
審級関係
評釈論文 山川隆一・平成8年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊945〕386~387頁1997年9月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 Aの死亡後、B専務は、他社の知人から基本給に在職年数を乗じた金額が退職金として支払われる事例が多いと聞知し、これによって計算したところ、七四二万五〇〇〇円となった(基本給二二万五〇〇〇円×三三年)が、亡Aの貢献度、同人の遺族の事情(未成年の子二人)等を考慮して退職金として一〇〇〇万円を支払うことを決定し、その原資として、本件中退金六四七万六九六〇円(平成五年七月三〇日頃支払)、C会社よりの保険金一五〇万円(同年八月一二日頃支払)、及び本件生命保険金のうち二〇二万三〇四〇円(同年九月一〇日頃支払)を充当した。〔中略〕
 2 右認定事実に基づき、本件合意の成否について判断するに、本件付保規定の書面は、平成二年七月二四日頃、D会社の外交員Eが、被告会社において、B専務及び亡Aに対し、本件生命保険契約締結に必要な書面として示し、署名・捺印を求めたものであるが、その際、Eは、亡Aから、同書面中の「この生命保険契約に基づき支払われる保険金の全部またはその相当部分は、死亡退職金または弔慰金の支払に充当するものとする。」との文言の意味内容について質問を受け、「亡Aと被告会社との関係だから自分が答えることはできない。」旨返答しており、その場にB専務も居あわせていること、本件付保規定の書面は、本来いわゆる「他人の生命の保険契約」について商法六七四条一項本文により必要とされる被保険者の同意を証する書面であるが、右文言の内容は合理的なものであって、被保険者である亡Aと被告会社の内心の意思が、そのようなものであることを推測させるに足りるものであること、同書面の記載事項は、右文言を含め、わずか三項(八行)にすぎず、記名捺印する際に十分一覧可能であったと認められることからすると、亡Aと被告会社との間に、暗黙のうちに本件付保規定の文言に沿った本件合意が成立したと認めるのが相当である。
 もっとも、遺族に支払われるべき死亡退職金または弔慰会の金額については、右文言上、常に本件生命保険金の全額が支払われるものとはされておらず、亡Aが保険金全額の支払を必ず受けられるものと期待していたとは考えられないから、本件生命保険金の相当部分をもって、死亡退職金または弔慰金に充当する旨の約定がなされたと認めるのが相当である。〔中略〕
 (3) 被告会社は、資本金一〇〇〇万円の同族会社であり、従業員数は、数名程度であるが、従業員に対する福利厚生の一環として、また対税上、保険料を損金に算入する目的をもって、古くから、従業員を被保険者とする生命保険契約に加入してきた。本件生命保険金全額が三〇〇〇万円と、通常の退職金額に比して多額であるのは、労働災害による死亡の場合のように、被告会社が多額の補償責任を問われる事態に備える意味合いも有すると考えられる。
 (4) 亡Aは、大腸がんにより、平成二年八月中旬から同年一〇月一九日まで入院し、同年一一月頃より職場復帰したが、その後は、午前一〇時頃出社し、午後三時頃退社するという勤務状況であった。
 平成四年一〇月以降、がんが再発し、放射線治療のためほとんど出社せず、同年一〇月は一日、一一月は二日、一二月は六日(B専務がホノルルマラソンに出場した期間中の出社三日を含む。)、同五年一月は九日、二月は一二日、三月は一四日、四月は六日のみの出社であり、同年四月二六日に入院し、同年六月二八日死亡した。
 被告会社は、亡Aの出勤状況が右のようなものであったにもかかわらず、自宅で電話によって営業業務に従事してくれればよいといって、給料の減額はせず、死亡に至るまで給料及び賞与の全額を支給し続けた。
 のみならず、被告会社は、平成二年八月から一〇月までの二か月分及び同五年五月分について、亡Aが傷病手当金(給与の六割当額)の支給を受けるのに協力した。
 また、被告会社は、C会社よりの入院給付金六四万五〇〇〇円を平成五年八月一二日頃、前記死亡保険金一五〇万円とともに原告に支払った。
 (5) 被告会社が亡Aを被保険者として加入した生命保険の状況は、前記一・1・(3)のとおりであり、D会社に対する支払済み保険料は、通算すると三〇二万七〇一四円である。
 また、被告会社は、平成五年九月一〇日までに本件生命保険金三〇〇〇万円の支払を受けたが、右収得により被告会社の平成五年度分(平成五年六月一日から同六年五月三一日まで)の税額は、法人税一〇四九万円、法人事業税三四四万九二〇〇円、法人都民税二一七万一四〇〇円、合計一六一一万〇六〇〇円と計算される。
 3 右認定した事情によって、被告会社が本件生命保険金のうちから原告に対し支払うべき退職金・弔慰金の額を定めるに、既払額を除き金五〇〇万円をもって相当と認める。