全 情 報

ID番号 06753
事件名 労災保険給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 横浜北労働基準監督署長事件
争点
事案概要  上司の依頼により同僚の引越し手伝いに行く途上に発生した新聞配達員の事故につき、業務遂行性及び業務起因性を欠くとした事例。
 再審査請求から一年一〇月を経過しても裁決をしない労働保険審査会の不作為につき、違法とはいえないとした事例。
参照法条 労働者災害補償保険法14条
労働者災害補償保険法15条
行政事件訴訟法3条5項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務遂行性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 使用者の原告適格
裁判年月日 1995年12月21日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 25 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 訟務月報42巻11号2769頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務遂行性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 (二) そこで、本件事故による原告の傷害について、業務遂行性及び業務起因性が認められるか検討する。
 まず、原告が従事しようとしたのは、Aの行う訴外会社の寮から寮への転居に伴う引越作業の手伝いであるが、それは、日曜の朝刊配達が終了した後の勤務時間外に、専業社員のAが私的に行う引越しの手伝いであって、原告の担当していた新聞配達及び集金という本来の業務と全く異なるものであり、また、原告の本来の業務に付随する、担当業務の遂行に伴う必要かつ合理的な行為とも目し得ない私的行為といわざるを得ない。もっとも、原告は、B店長から特に原告ら三名を指名してAの引越しを手伝うよう指示があったため、入社して間もないこともあって、これを断り切れずに手伝いをしようとしたことは認められるが、具体的な引越作業の手順・分担・従事する人員、集合場所・時間、引越しの開始時間、終了時間等についてはB店長から何も指示はなく、まして勤務時間外に行われる引越しの手伝いについて時間外手当をどうするかという話しもなく、指名された三名のうちCは私用を理由にこれを断っているのである。それゆえ、B店長の右指示は、A自身が同人個人の引越しの手伝いをしてくれる者を募っている際、これに助言して、手伝う者を斡旋するという私的な依頼の域を出るものではないと解され、これを業務指示命令と解することは困難である。原告は、B店長の依頼もあって、結局は自己の意思による好意で、当日の勤務時間終了後に行われる同僚の引越しの手伝いをしようとしたもので、本件事故は、原告が本件バイクに乗って右私的な引越作業の手伝いに出かける途中に発生したものである。したがって、本件事故は、労働契約に基づく使用者の支配関係の下において生じたものとはいえないから、業務遂行性が認められない。また、本件事故は、使用者の支配下にあることの危険性が現実化したものといえないことは明らかであるから、業務起因性も認められない。原告は、業務上の事由により負傷したとはいえない。
〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-使用者の原告適格〕
 (1) 被告労働保険審査会は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命した委員六名をもって組織され、委員のうちから被告労働保険審査会が指名する者三人をもって構成する合議体で、再審査請求の事件又は審査の事務を取り扱うこととされており(労働保険審査官及び労働保険審査会法〔労審法という。〕二六条、三三条一項)、被告労働保険審査会の内規により、労災保険法三五条一項の規定による再審査請求事件を取り扱う合議体は二体置かれている(〈証拠略〉)。
 (2) 〈証拠略〉によると、平成元年から五年間の労働保険再審査請求の取扱件数は別紙のとおりで、被告労働保険審査会は、毎年二五〇件前後の件数の新規請求を受理しながら、三〇〇件近い件数の裁決を行っているが、毎年七〇〇ないし八〇〇件の前年繰越件数があって、平成五年度の残件数は六四四件あったこと、一合議体当たりの処理対象件数は年間四八〇件前後となり、そのうち毎年一五〇件前後の裁決を行っていること、再審査請求事件は、いわゆる過労死を始めとして、じん肺症患者に発生した肺癌など業務起因性等の判断に困難を伴う事案が増加するなど請求の内容が複雑、多様化していること、これに対し合議体の増置のための委員の増員には法律改正を要し、また、委員及び事務担当職員の増員には予算や定員管理上の制約もあり、これを直ちに実施することは困難で、現体制の下で更に裁決の件数を大幅に増加させることは極めて困難な状況にあること、被告労働保険審査会は、公開審理を必ず経なければならないとされている(労審法四二条ないし四五条)が、被告労働保険審査会の内規により原則週一回これを開催し、平成六年度までは一回当たりの審理件数は七件程度であったが、平成七年度からこれを九件程度に増加させていること、再審査請求事件は原則としてすべて等価値のもので、行政手続に要求される公正さの観点から、受理した事件から順次公開審理に付することとせざるを得ないこと、したがって、これらの諸事情から、一件の労働保険再審査請求事件の処理には二年を超える期間を要する状況となっていること、以上の事情が認められる。
 そして、平成七年九月二八日本件再審査請求について審理が開催されて同日終結したことは、前記のとおり争いがないところであるが、〈証拠略〉によると、被告保険審査会では現在、本件再審査請求について裁決書を作成中であり、平成七年内には裁決書の作成及び原告への送達を完了する意向であることが認められる。
 (3) 以上の事情を斟酌すると、被告労働保険審査会が本件再審査請求に対し裁決するのに相当の期間を経過したことを正当とするような特段の事情がある場合に該当するということができる。したがって、本件再審査請求に対し被告労働保険審査会が未だ何らの裁決をしない不作為は、結局、違法ということはできない。