全 情 報

ID番号 06760
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 トーフレ事件
争点
事案概要  期間の定めのない労働契約から有期契約への変更につき、定年制が定められている場合でも労使の合意によるものであれば、許されるとした事例。
 期間の定めのある労働契約の更新拒否につき、業務指示違反等があり、やむを得ない事情があったとした事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1996年1月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 24408 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労経速報1590号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の期間〕
 2 右事実によれば、原告は、被告会社との間に締結した期間の定めのない雇用契約について、平成五年二月二日、期間を一年、年俸を七二〇万円(月額五〇万円、賞与年二回各六〇万円)、計上した利益の三分の一の配分を受けるとの内容に切り換える合意をしたものということができる。
 原告は、右変更合意は、被告会社の強迫によるものであると主張し、原告本人尋問において、被告会社が従業員に厳しく退職を迫る労務管理を採っているので変更契約を拒否できなかった旨を供述するが、右認定事実によれば、原告は、右合意をするに当たって、被告会社からの契約書の署名要請に際して、不利益な圧迫を受けたわけでもなく、また、なんらの異議も申し出ず、契約書面を郵便で授受しているのであって、その僅か四カ月前には被告会社に自己に対する解雇の不当を訴えて交渉を重ねこれを撤回させているのであるから、右合意が被告会社の強迫行為によって恐怖心からやむなく交わされたものという状況にあったというには当たらないのであり、むしろ、原告にとって有期雇用契約の締結は不本意ではあったが、これによって簡単に雇止めにされることがないものと理解して一応納得したものということができるのであって、他にこれが強迫によるものであることを認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は採用できない。
 原告は、右合意が就業規則に違反し、また、公序良俗等に反して無効であると主張する。確かに、被告会社においては、就業規則において満六〇歳定年制を定め、退職事由として死亡、定年、自己退職、解雇、休職期間満了を掲記しているが(書証略)、定年制は定年年齢の到達によって雇用契約を終了させる制度であって期間の定めに関するものではないから、右就業規則の下において、新たに期間の定めのある雇用契約を締結し、又は、期間の定めのない雇用契約に基づいて入社した従業員について合意に基づき期間の定めのある雇用契約に切り替えることが就業規則に定める基準に反して許されないとする理由はない。また、期間の定めのない契約を当事者の合意によって有期の契約に切り替えることが公序良俗、信義則に反するものであると解することもできない。〔中略〕
 二 更新拒絶の通知の効力について
 1 右一の事実によれば、原告と被告会社間の期間の定めのない雇用契約は期間を一年間とするものに切り換えられたこととなるところ、右切り換えはエキスパンション部について独立採算制の実を上げることを目的として合意されたものであって、原告及び被告会社双方ともに右期間満了後も雇用関係の継続が期待されていたものということができるから、原告を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推されるべきであると解するのが相当である。
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 2 右事実によれば、原告は、営業担当者として職務上指示された日報の提出及び転送電話の入力を長期間にわたって怠り、また、被告会社の外注系列に関する営業方針を無視して発注する等して度々業務上の指示に従わなかったものであり、その業務指示違反は、単に原告の怠慢に基づくというよりも、原告が従前の経験で得た独自の営業活動方針を固執するものであって、営業担当者としての職責を逸脱していたといわざるを得ないから、被告会社が原告について期間満了後も雇用を継続することが困難な状況に至ったと判断したことはやむを得なかったものということができる。被告会社は、前記一に認定のとおり、原告が有期雇用契約を拒否したことに関して原告に解雇通告をする性急な態度に出るなど、強い勧誘によって入社を求めた割には原告に対して不誠実な対応を採り、また、エキスパンション部の独立採算制を目的としながら、二課の営業に対して十分な人員体制を措置していなかった面があるが、有期雇用契約を締結後において、被告会社が原告主張のような嫌がらせ・不当な労務政策を続けたことを認めるに足りる証拠はないのであって、右認定の原告の勤務態度は職務上の指示に違反していたものといわざるを得ない。
 そうであれば、被告会社が原告に対してした更新拒絶の通知にはやむを得ない事情に基づく相当な理由があるというべきであるところ、右通知は、期間の満了する日をもって終了する旨を内容とする趣旨のものであって、右認定事実によれば、原告と被告会社との間の雇用契約は平成六年二月一日をもって満了するのであるから、右通知によって右雇用契約は右同日をもって終了したものと解するのが相当である。