全 情 報

ID番号 06772
事件名 解雇無効確認等請求
いわゆる事件名 よしとよ事件
争点
事案概要  経営不振を理由とする販売員の整理解雇につき、解雇回避努力が尽くされたとはいえず、人選にも疑問があり、労働者への説得も不十分として、権利濫用に当たり無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1996年2月27日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 773 
裁判結果 認容(控訴後和解)
出典 労働判例713号86頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 三 判断
 1 前記一〔2〕について
 希望退職の募集は、労働者の自主的な決定を尊重しうる点に意味があるところ、前記認定事実によれば、被告は、希望退職を募ってはいるが、他方で、これに応じなければ、対象者全員を解雇するというものであるから、原告らに退職しない自由はなく、被告の方針は、右希望退職募集の趣旨にそぐわないといえる。
 また、被告の意図した人件費削減を行うためには、三名の従業員を解雇し、引き続き在職する二名の従業員について賃金等の労働条件を切り下げる方法を採っても達成できるのに(労働条件の変更に応じなければ、そのときに更に解雇等の措置を検討する。あるいは、被解雇者の選定の基準の一つとして、労働条件の変更に応じる意思の有無を考慮する。)、前記認定事実によれば、被告は、五名全員を一斉に解雇しており、解雇回避の手段として相当とはいえない。
 さらに、前記認定事実によれば、被告は、本件解雇後に二名のパートを採用する予定であったところ、原告らが解雇を争うことを留保しつつパートに応募したことに対し、被告は、解雇を認め、退職金等を受け取ることが前提であるとして、これを拒否している。この点について、被告は、解雇を争っている者に再雇用はあり得ない旨主張するが、前記認定事実によれば、採用予定が二名であるのに対し、被告は五名の従業員を解雇しているから、原告らのうち、少なくとも二名はパートとして採用されないことになるところ、本件解雇の適法性につき疑問を持っている者に対し、解雇を認めなければ、パートとして採用しない(本件解雇を争うか、パートとして採用されることを期待するか、の選択を迫る)という方針は、原告らの地位を無用に不安定にするものであり、従業員の身分保障の趣旨に反する。
 右各点からして、被告は解雇を回避する努力を尽くしたとはいえない。
 2 前記一〔3〕について
 被告が本件解雇をするにあたって、正社員とパートの身分、年齢、労働能力、解雇により受ける打撃の程度などを考慮したことを認めるに足りる証拠はないところ、前記認定事実によれば、被告は、原告ら及びAについてだけ希望退職及び解雇の対象とし、五名全員を解雇した後パートとして二名を再雇用という方針を採っている。そこで、B及びCに特別な能力があり、D及びCが賃金切り下げに同意していたとしても、前記認定事実によれば、D、C、Aが既に定年を過ぎているのに対し、原告らは定年に達していないのであるから、被告がこれを考慮していないのは、それだけで被解雇者を選定する基準の合理性を疑わせる。
 3 前記一〔4〕について
 人事同意約款につき、分会の同意まで要するか否かについては争いがあるが、事前に協議をしなければならない点については争いがない。したがって、同意まで要するか否かはさておき、被告は、組合及び労働者の納得を得るために誠実に説明、協議を行う義務があるというべきである。そして、分会が解決に向けて被告と協議をするためには、被告の経営状態を把握することが不可欠であり、そのためには、貸借対照表や損益計算書等の資料を十分検討する必要がある。また、右資料が膨大な量になること、短時間で控えを取ることは困難であることを考慮すれば、右資料の閲覧だけでなく、コピーを取ることを認める必要がある(被告は、コピーを取らせなかったのは、外部へ流出することを恐れたからである旨主張するが、前記認定事実によれば、被告は、従前、分会に対し、年度末の決算等の資料のコピーを交付していたところ、これによって、何らかの不都合があった事実を認めるに足りる証拠はないから、被告の主張は採用できない。)。それにもかかわらず、前記認定事実によれば、被告は、「試算表」と題する資料を交付しただけで(「試算表」の作成者が被告の顧問税理士であることを考慮すれば、分会がその信用性に疑いを差し挟むことは、あながち不合理とはいえない。)、貸借対照表や損益計算書等の資料については、京都府地方労働委員会での団体交渉の席に持参し、その控えを取ることを認めただけで、分会の要求にもかかわらず、コピーを取ることを認めなかったのであるから、被告は、誠実に説明、協議を行ったとはいえない。