全 情 報

ID番号 06780
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 藤島建設事件
争点
事案概要  一階屋根工事に従事していた大工が、約三メートル下の地上に墜落して重傷を負った事故につき、建物建築請負業者の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
労働安全衛生法21条2項
労働安全衛生規則518条
労働安全衛生規則519条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1996年3月22日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ワ) 1679 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ914号162頁/労働判例696号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 (一)に認定した事実関係を総合すると、原被告間の契約関係は、典型的な雇用契約関係であったとは到底認め難く、また、典型的な請負契約関係であったともいえないが、請負契約の色彩の強い契約関係であったとみるべきところ、それにもかかわらず、原被告間には、実質的な使用従属関係があったというべきであるから、被告は、本件事故の当時、原告に対し、使用者と同様の安全配慮義務(労働者が労務を提供する過程において生じる危険を防止し、労働者の生命、身体、健康等を害しないよう配慮すべき義務)を負っていたと解するのが相当である。〔中略〕
 (一) 前示一2の事実関係によると、被告は、原告を高さ約三メートル以上の高所において木工事の作業に従事させており、原告が右高所から墜落する危険のあることは容易に予見することができたものと認められるから、本件事故の当時、前示安全配慮義務の履行として、外回りの足場、防網などの墜落を防止するための設備を本件現場に設置する(労働安全衛生規則五一八条、五一九条参照)とともに、右設備が設置されていない場合には、原告に対し、高所における作業に従事することを禁止するなど墜落による危険を防止するための措置を講ずべき義務があったものというべきである。
 ところで、前示のとおり、被告の現場監督のAは、原告との間で、木工事の工程について確認をしていたこと、Aは、平成二年二月三日ころ、原告が既に二階の屋根工事をおおむね終了していることを知ったこと、原告は、Aに対し、同月五日朝、外回りの足場のないまま、晴れ間を見て作業に従事することを告げたことが認められ、右各事実によると、被告は、同日、原告が外回りの足場が設置されていない状況の下で一階の屋根工事に従事することを十分予見することができたというべきである。
 しかるに、被告は、原告に対し、右足場その他の墜落を防止するための設備のないまま高所における作業に従事することを禁止することなく、原告が地上約三メートルの高所において作業に従事することを漫然と黙認したものであって、その安全配慮義務違反は明らかであるといわざるを得ない。
 (二) なお、被告は、前示のとおり、原告を含む協力業者に対する安全教育についてそれなりの配慮をしていたことが認められるものの、前示事実関係の下では、右程度の配慮をしたことをもって安全配慮義務を尽くしたとは到底認めることができないのであって、右事実は、(一)の認定を妨げるものではない。
 また、前示のとおり、外回りの足場がない場合、脚立(大工であれば通常携行している道具)を使用することにより、屋根の上に上がって前かがみの姿勢にならなくても、一階の屋根部分の垂木に破風板を打ち付けることが可能ではあったことが認められるが、他方、証人Aの証言によると、このような脚立を使用する作業方法は、通常採用されているものではないこともうかがわれるのであって、この点に照らして考えると、右事実は、(一)の認定を妨げるものではないというべきである。〔中略〕
 原告が労災保険に加入していれば本件事故について相当の補償が受けられたとしても、原告が本件事故の当時に労災保険に加入していなかった事実をもって、労災保険上の権利ないし本件損害賠償請求権の放棄と同視することは困難であり、原告の本訴請求を条理上失当とすべき事情に当たるとは到底認め難く、被告の右主張は理由がないといわざるを得ない。