ID番号 | : | 06781 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 細倉鉱山事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 鉱山において坑内作業及び製錬作業に従事した労働者のじん肺罹患につき、使用者に安全配慮義務違反があるとして損害賠償の支払を命じた事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法418条 民法719条1項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 慰謝料 |
裁判年月日 | : | 1996年3月22日 |
裁判所名 | : | 仙台地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成4年 (ワ) 497 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1565号20頁/タイムズ912号66頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 〔中略〕被告らは、昭和二三年頃以降、本件原告らが細倉鉱山に勤務していたそれぞれの時期において、じん肺防止措置を講ずべき必要性を認識し、一応のじん肺防止措置を講じてきたとはいえるものの、その現実的な措置は、粉じん職場に勤務する本件原告らに対するものとしては不十分なものであって、本件原告らに対する安全配慮義務を十分に尽くしたとはいい難いといわなければならない。 すなわち、被告らには、本件原告らに対する安全配慮義務の不履行があったものといわなければならない〔中略〕。 他方、被告らは、じん肺法等じん肺関係の法規は、常時最高水準に到達していると評価されているから、その規定を遵守している限り、当然に違法性が阻却され、したがって、債務不履行責任を負わない旨主張するが、じん肺法、鉱山保安法等の行政法令の定める労働者の安全確保に関する使用者の義務は、使用者が労働者に対する関係で当然に負担すべき安全配慮義務のうち、労働災害の発生を防止する見地から、特に重要な部分で、かつ、最低限度の基準を、公権力をもって強制するために明文化したものというべきであるから、右行政法令の定める基準を遵守したからといって、信義則上認められる安全配慮義務を尽くしたことにはならないといわなければならない。 また、被告らは、被告らがじん肺防止措置を講じるに当たって、その都度、労働組合の承認を得てきたことをもって、被告らに右安全配慮義務の不履行がなかったことの根拠とする主張をする。しかしながら、右安全配慮義務の履行・不履行は、以上各別に検討してきた諸点を総合考慮して判断されることであって、被告らの講じてきたじん肺防止措置が労働組合の承認を得たものであったとしても、それにより、被告らの安全配慮義務がすべて尽くされたことにならないことは明らかというべきである。 じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号六番及び一一番の各原告が、鷲合森鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。 このような場合、被告Y1会社及び被告Y2会社の責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。 そうすると、被告Y1会社及び被告Y2会社は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号六番及び一一番の各原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。〔中略〕 (六) 原告番号二二番の原告〔中略〕が、福舟鉱山又は佐渡鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、A組及び被告Y3会社がそれぞれの鉱山において右原告に対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。 細倉鉱山における、被告Y1会社及び被告Y2会社の昭和四九年九月以降の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号二二番の原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号二二番の原告が、福舟鉱山、佐渡鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。 このような場合、被告Y1会社及び被告Y2会社の昭和四九年九月以降の安全配慮義務の不履行に基づく責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。 そうすると、被告Y1会社及び被告Y2会社は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、各自、原告番号二二番の原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。 なお、被告Y3会社については、原告番号二二番の原告が、佐渡鉱山に就労中の具体的な安全配慮義務の内容が明らかでないばかりでなく、右原告が、佐渡鉱山に就労中の事由によりじん肺に罹患したと認めるに足りる証拠はないから、被告Y3会社が独自に右原告に対しじん肺に罹患したことによる損害賠償義務を負うことはないというべきである。 (七) 原告番号二三番の原告〔中略〕が、福富鉱山又は福舟鉱山においてじん肺に罹患したかどうか、A組が右各鉱山において右原告に対し、安全配慮義務を尽くしたかどうか等の点についてはいずれとも確定するに足りる証拠はない。 細倉鉱山における、被告Y3会社の昭和五三年一〇月以降の安全配慮義務に不履行があったことは前認定・判断のとおりである。そうすると、その不履行が、原告番号二三番の原告のじん肺罹患を惹起させた蓋然性が高いとはいえるものの、じん肺が、体内に吸入された粉じんの蓄積により発生し、しかも、粉じんの吸入を止めた後も進行を続けるという特徴を有することからすれば、原告番号二三番の原告が、福富鉱山、福舟鉱山及び細倉鉱山に就労中のいずれの時期にじん肺に罹患したかを確定することができない。 このような場合、被告Y3会社の昭和五三年一〇月以降の安全配慮義務の不履行に基づく責任については、不法行為による被害者の保護との均衡上、共同不法行為についての民法七一九条一項後段の規定が類推適用されると解するのが相当である。 そうすると、被告Y3会社は、民法七一九条一項後段の規定の類推適用により、原告番号二三番の原告がじん肺に罹患したことによって被った損害の全部の賠償をすべき義務がある。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-慰謝料〕 二 損益相殺〔中略〕 通常、労災補償法に基づく保険給付の原因となる事故が惹起され、使用者がそれによって生じた損害につき賠償責任を負う場合に、政府が被害者に対し、労災補償法に基づく保険給付をしたときは、被害者が使用者に対して取得した損害賠償請求権は、右保険給付と同一の事由については損害の填補がされたものとして、その給付の価額の限度において減縮するものと解されるところ、労災補償法に基づく休業補償給付、傷病補償年金により填補されるのは、被害者の受けた財産的損害のうちの消極損害(逸失利益)のみであり、精神的損害(慰謝料)は填補されないと解されるから、右各給付を受領したとしても、その額を慰謝料から控除することは許されないとされている。〔中略〕被告らの主張するじん肺見舞金は、労使間の労働協約に基づき支給されるじん肺特別餞別金であると認められるところ、その法的性質は、労災補償法に基づく給付の相対的な低水準に対してそれを補い、被害労働者の所得を補償する機能を有する労災補償給付の上積協定であると解され、したがって、通常、右休業補償給付等と同様、被告らの主張するじん肺見舞金によっては、精神的損害(慰謝料)は填補されず、その額を慰謝料から控除することは許されないものと解される。 |