全 情 報

ID番号 06797
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 社会福祉法人大阪府衛生会事件
争点
事案概要  欠勤等を理由としてなされた看護婦に対する懲戒解雇において、裁判で他の懲戒理由を追加できるかどうかにつき、処分時に使用者が認識していた事実についてはそれを懲戒事由から除外する旨の意思表示等を行った場合を除き、追加可能とした事例。
 勤務時間中に団体交渉のテープの文章を起こしたことなどによる懲戒解雇を有効とした事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 裁判における懲戒事由の追加・告知された懲戒事由の実質的同一性
裁判年月日 1996年3月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 3516 
裁判結果 却下
出典 労働判例697号63頁/労経速報1607号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-裁判時における懲戒事由の追加〕
 一 争点1(解雇事由の追加主張の許否)について
 前記のとおり、本件解雇を通知した書面には、解雇事由として、前記第一の三の2の(八)ないし(一〇)の事実のみが記載されている(ただし、前記(八)の事実については、「無届で欠勤した」ではなく、「許可なく欠勤した」と記載されている。)ところ、本件において、債務者は、同(一)ないし(一〇)の事実の全てを解雇事由として主張する。
 ところで、懲戒解雇等の懲戒処分は、企業ないし法人の秩序に違反した行為に対する一種の秩序罰であり、組織秩序に違反する特定の非違行為を対象として行われるものであるところ、懲戒事由に該当する複数の行為が存在する場合には、使用者としては、その一部だけを対象として懲戒処分をすることも許されると解される。そうすると、ある懲戒処分の対象となる非違行為は、使用者が処分時に懲戒事由とした行為に限られるものというべきであって、後日、その効力を争う裁判において、使用者が、処分当時認識していなかった行為等、処分時において懲戒事由としていない非違行為を、懲戒事由として追加主張することは許されないというべきである。
 しかし、被処分者に対し、懲戒の意思表示を通知する書面は、必ずしも、右のような法的意味を正確に認識した上で作成されるものではない。かかる書面においては、使用者が懲戒事由とした事実のすべてが網羅的に記載されているとは限らず、代表的な事由のみを例示的に記載していることも多いのであって、かような事情にかんがみれば、懲戒処分時に使用者において認識していた事実については、懲戒事由から除外する旨明示した上で懲戒の意思表示を行った等、特段の事情のないかぎり、たとえ右書面に記載されていないものであっても、懲戒事由とされているものと推定すべきであって、その効力を争う訴訟において、使用者において追加的に主張し得るものと解すべきである。そして、審尋の全趣旨によれば、前記(一)ないし(八)の各事実は、仮に存在するとすれば、本件解雇時において債務者が認識していたことは明らかであって、右にいう特段の事情は窺われないから、債務者は、前記(一)ないし(一〇)の事実の全てについて、本件解雇の事由として主張し得るものと解すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 四 懲戒解雇の相当性について
 前記二で疎明された解雇事由のうち、(三)及び(四)の重大性は、それぞれにおいて説示したとおりである。
 また、解雇事由(九)については、かかる行為は、薬品等の管理上も問題があるばかりでなく、前記二8のように、正当の理由なく欠勤する行為の前提となったものであり、著しく職場秩序を乱すものという外はない。
 さらに、解雇事由(一〇)については、債務者の経営する児童福祉施設は、入所児童数に応じて支給される措置費によって運営されているところ、児童の措置権限は、児童相談所にあるから、前記のような文書が子ども家庭センター(児童相談所)へ配付されると、児童の措置数が減少し、措置費も減少する結果となって、財政的に大きな打撃を受けるおそれが多分にあるものである。
 以上のような、本件解雇事由に該当する債権者の行為の重大性にかんがみれば、これに対し、懲戒解雇をもって臨むのは、やむを得ないものというべきであって、右解雇につき権利の濫用はない。