全 情 報

ID番号 06806
事件名 遺族補償給付不支給処分取消等請求事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金愛知県支部長事件
争点
事案概要  出訴期間経過後に予備的に追加された公務外認定取消しの訴えにつき、主位的請求と予備的請求の争点が同一であるとして、適法とされた事例。
 中学校教諭の心筋梗塞による死亡につき、生徒指導主事としての業務等に起因するとして、公務災害に当たるとした事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
地方公務員災害補償法42条
地方公務員災害補償法45条
行政事件訴訟法14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 出訴期間
裁判年月日 1996年5月8日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (行ウ) 1 
裁判結果 一部却下,一部認容(控訴)
出典 タイムズ935号121頁/労働判例696号25頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-出訴期間〕
 第二 予備的請求に係る訴えの適法性について
 訴えの変更は、変更後の新請求については新たな訴えの提起に他ならないから、右訴えについて出訴期間の制限がある場合には、右出訴期間遵守の有無は、右訴えの変更の時を基準としてこれを決すべきであるが、変更前後の請求の間に訴訟物の同一性が認められる場合、又は両者の間に存する関係から、変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情が認められる場合には、例外的に当初の訴え提起の時を基準としてこれを決することができるものと解するのが相当である(最一小判昭和五八年九月八日・判例時報一〇九六号六三頁参照)。
 これを本件についてみるに、主位的請求は本件不支給処分の違法を主張してその取消しを求めるものであるのに対し、訴えの変更により追加された予備的請求は本件公務外認定処分の違法性を主張してその取消しを止めるものであるから、両請求の間に訴訟物の同一性があるということはできない。しかしながら、乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が原告に対して昭和六〇年五月三一日付けでしたのは本件公務外認定処分だけで他に処分をしていないこと、原告は、当初本件公務外認定処分をもって不支給処分と見誤ってその取消しを求める旨記載した訴状を提出して訴えを提起したこと、もし原告において被告から受けた右処分が公務外認定処分であると正しく認識しておれば、当初からその取消しを求める旨の訴えを提起したであろうことは確実であること、換言すれば、法の上で公務外認定処分と不支給処分が別個の処分と構成されている関係上、原告が提起した右両請求はその各訴訟物を異にするものとならざるを得ないものの、右両処分は、いずれにしても原告が行う公務災害補償請求が認容できるかどうかの判断に向けた一連の手続上のものであるという点では、相互に密接な関連を有しており、そうであればこそ、原告が訴え提起によりその取消しを求めた真意は、あくまでも被告が原告に対して昭和六〇年五月三一日付けでした法に基づく唯一の処分であることが認められるのであって、以上の事情に加えて、右両請求の当否は、いずれにしてもAの死亡が公務に起因するものであるか否か、すなわち公務起因性の判断如何によって決せられるという点で、争点を同じくするものであることを併せ考慮すれば、変更後の予備的請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し、出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情が認められるものというべきである。したがって、本件においては、右出訴期間を遵守したかどうかにつき当初の訴え提起の時を基準としてこれを決することができるところ、原告が本件公務外認定処分に対する不服申立てを前記の予備的請求関係に係る請求原因(三)の経緯のとおり行い、審査会の昭和六二年九月一六日付けの裁決の通知を同年一〇月一五日に受け取ったことは被告が自認するところであり(乙第九号証によれば、右裁決が同年一〇月一五日に通知された事実が認められる。)、また、その後昭和六三年一月一五日の経過前である同年一月八日に当初の訴えが提起されたことは当裁判所に顕著であるから、結局、原告の予備的請求に係る訴えはその出訴期間経過前に提起されたものとして適法であるというべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労働時間-労働時間の概念-教職員の勤務時間〕
 2 相当因果関係について
 (一) 以上認定した事実を総合すると、Aは、右1(一)で判示した著しく過重な公務により精神的、身体的疲労を回復することなくこれを蓄積させ、その結果、前記三で認定した本件血管病変を進行・増悪させて急激な冠動脈内腔の狭窄ないし閉塞を起こしやすい身体的状態のまま本件発症前日に至り、右1(二)で判示したように、本件発症前日にも、勤務時間における勤務のみならず、その終了後にも校外パトロールに当たるなどの過重な公務に従事したことが認められる。これらの事実によれば、右過重な公務により恒雄の本件血管病変(冠動脈硬化及び冠動脈内腔の狭窄)が自然的経過を超えて急激に進行し、その結果、心筋の変性、壊死の結果を招来し、本件発症に至ったこと、すなわち公務と本件発症との間の相当因果関係が存在した事実を推認することができるというべきである。