全 情 報

ID番号 06816
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 三州海陸運輸事件
争点
事案概要  労働協約に「組合員に影響を与える身分・賃金・労働諸条件の変更について、組合と事前に交渉し、労使合意の上で円満に行うことを誓約する」という条項が存在する場合、廃業に伴う全従業員の解雇についても右条項が原則として適用されるとし、本件では会社が経営状態を示す商業帳簿等の開示を一切行っていないことなどの理由により、右解雇を違法・無効とした事例。
参照法条 労働基準法2条
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1996年6月11日
裁判所名 神戸地
裁判形式 決定
事件番号 平成7年 (ヨ) 269 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例697号33頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 2 もっとも、既に説示した債務者の廃業の自由を尊重すべき見地から、債務者の廃業に伴う全従業員を対象とした解雇において、本件条項所定の「労使合意」を欠いている場合であっても、債務者において、〔1〕 廃業を決意することの合理性が客観的に認められ、かつ、〔2〕 このことを同条項所定の組合との「協議」の場で誠意をもって説明をした場合には、当該解雇が法律上有効であると解するのが相当である。
 そこで検討するに、本件記録を精査しても、「債務者は、組合に対し、廃業を決意した理由を誠意をもって説明した」という事実を認めるに足りる疎明資料はない。かえって、一で認定した事実、一件記録及び審尋の全趣旨によると、Aは、平成七年五月一〇日組合の執行委員長に対し、債務者において赤字が連続しているので債務者を閉鎖したい旨告げたのに対し、同委員長は、債務者の経理が赤字である筈がない旨告げたこと、同月二九日債務者は、債権者らに対し、全従業員の解雇等を通告したので、債権者らはこれを受け入れるための条件を示したのに対し、債務者は、これを十分検討することなく、同年六月一〇日債権者らに対し拒否する旨伝えたこと、債務者は、組合に対し、その経理において赤字であることが記載されている同年一月から同年三月までの月別の債務者における収入、支出及び収支を記載したメモを交付したにすぎず、商業帳簿等の開示を一切していないこと、債務者は、同月二一日に組合との交渉の席についたものの、これが決裂した後、同月二七日組合からの交渉の申入れを一方的に拒否したことが認められる。右の諸事情を総合すると、債務者は、組合に対し、廃業を決意した理由等を未だ誠意をもって説明していないというべきである。
 以上によると、債務者において廃業を決意することの合理性が客観的に認められるか否かについて検討するまでもなく、本件解雇は本件条項に違反するものである。
 3 してみれば、本件解雇は、これが不当労働行為に該当するかどうかについて検討するまでもなく、違法、無効であると認められる。