全 情 報

ID番号 06818
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 テラメーション事件
争点
事案概要  本件債務引受承諾の内容に基づき、営業譲受会社に、譲渡会社時代の未払賃金の支払義務があるとした事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の承継 / 営業譲渡
裁判年月日 1996年6月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 3861 
裁判結果 認容
出典 労働判例701号45頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
 二 本件の争点は、原告ら及び選定者ら(以下「原告ら」という。)のA会社在籍当時の未払賃金債務を被告が承継するか、そして、これが肯定される場合には、原告らのA会社在籍当時における未払賃金の額である。
 1 まず、右原告らのA会社在籍当時における未払賃金債務承継の点についてであるが、被告とA会社との間の合意を記載した書面である「債務引受承諾書」(〈証拠略〉)の記載文言中の未払い債務一覧表欄の6項には「9月アルバイト、コンピュータ訓練給与」との記載があり、その合計額が八五万八五五〇円であることが明記されているところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、平成七年九月当時においては、B会社から請け負ったデータ入力作業を担当するアルバイト従業員らのためのトレーニングを担当していたことが認められるから、特段の反証のない限り、右「債務引受承諾書」の記載は、原告らを含むA会社従業員らのうち被告に移籍した者全員に対する未払賃金の額を示すものと推定すべきであり、その他右記載文言全体の趣旨等からすると、明らかに、被告がA会社の未払賃金の支払義務を引き受けたことが認められる。そして、この被告とA会社との間の合意は、合意当事者である被告及びA会社との関係では第三者の立場にある原告らのためになされた契約であるが、原告らが右合意の効力を承認していることは、本件訴訟の態様からして明らかである。
 したがって、被告は、A会社の未払賃金債務を承継し、原告らに対してA会社在籍当時の未払賃金を支払う義務を負ったものと認められ、本件記録上、この点に関する被告の反対主張を支持するような証拠はない。
 なお、被告は、原告らのA会社在籍当時における賃金についてはA会社が支払うべきものである旨を主張している。たしかに、特段の事情がない限り、被告の債務引受があってもA会社の本来的な賃金支払義務が消滅することはなく、右認定のとおりに被告について債務引受の事実が認められてもなお、A会社は、原告らがA会社に在籍していた当時の賃金債務を支払うべき義務を負っているのである。しかし、被告は、右認定の債務引受によってA会社当時の賃金債務を引き受けたのであるから、原告らに対し、原告らがA会社に在籍した当時の賃金を支払うべきである。被告は、A会社に対し、原告らがA会社に在籍した当時の賃金相当額を求償請求することなどによって事後的な調整をはかるべきである。
 2 次に、A会社在籍当時における未払賃金の額であるが、右のとおりに債務承継が肯定され、かつ、原告らがA会社に雇用された後、その全員が被告に移籍したことについては当事者間に争いがない以上、被告又はA会社において賃金の全部又は一部を弁済したことを立証しない限り、原告ら主張のとおりの未払賃金債務があるものと判断すべきである。